第10章 稽古という名の
すぐさま動く琴音。一足跳びに義勇の側まで飛び込んで、頭上より鋭い斬撃を振り下ろした。
義勇は琴音の竹刀を下から受け、刀を合わせる。バシィという音が道場に響いた。
通常なら、上からの攻撃の方が威力が増すため有利だが、力は義勇の方が数段上である。下から振り上げる力で押し上げた。
義勇の力が竹刀に乗ったその瞬間、己の竹刀からパッと手を離す琴音。彼女の持っていた竹刀だけがくるくると宙を舞った。
え、と驚く義勇。急に軽くなった刀を振り抜く間もなく、琴音の次の一歩で胴に踏み込まれ、低い体勢からの肘打ちを当てられた。
本来は鳩尾を狙うものだと推察されるが、そこは外して攻撃をする琴音。
義勇が反撃をしてくる前に後ろに飛び退くことで素早く間合いをとり、離れる際に落とした竹刀を拾ってまた構える。
不意打ちだったとはいえ、いきなり腹に一撃を入れられた義勇。体重が軽い琴音の当て身など大したことはないが、正直驚きを隠せない。
「手加減はいらないようだな」
「それは光栄ね。挨拶代わりに一発かまさせていただきました!」
ニヤリと笑い合う。
甘露寺のように腕力が強いわけじゃない。
しのぶのようなとびきりの速さがあるわけでもない。
しかし、琴音も甲だ。
強くて当然。くぐった修羅場も数え切れないほどあるし、彼女はそこを生き延びてきたのだ。
義勇はぐっと竹刀を握り直した。
再び琴音が攻撃をしかけ、二人は速い打ち込みの応酬を繰り広げる。
やはり、女である琴音は速さと手数で勝負をしてくる。少しでも鍔迫り合いのような力勝負になると、うまく力を流して躱す。
技を受けながら、よく鍛えられてるなと義勇は思う。
しかし、それでも義勇は水柱であり、琴音の二年先輩である。技術面でも細かいところで彼が上回る。
彼女が義勇の竹刀を受けた僅かな隙をついて、側面から蹴りを繰り出した。
「――っ!!」
すぐさま反応して蹴りを躱すが、そこへ蹴りの反動を利用した義勇の素早い竹刀が打ち込まれて琴音の右手に当たる。
「いだっ!」
「一本」
「くうっ……悔しいっ!!」
悔しさと腕の痛みで口を尖らせる琴音。