第10章 稽古という名の
「うん!美味しいと思うわよ」
千代が琴音の鮭大根に太鼓判を押す。
琴音はホッとした顔を見せた。
「じゃあ味を染み込ませるためにしばらく放置!千代さん、お手伝いいただきありがとうございます」
「ふふ、私は何もしてないわよ」
「いえ、千代さんがいなかったらだいぶ時間がかかっちゃったと思います。助かりました」
「いえいえ。私も晩御飯作るの楽になって助かったわ」
琴音は千代に頭を下げると割烹着を脱いだ。
「では、私は冨岡と稽古してきます」
「怪我のないようにね」
「はいっ!」
琴音は捲くっていた隊服の袖を戻しながら台所を出ていった。
が、すぐに戻ってくる琴音。
「千代さん。冨岡の部屋ってどこですか?」
千代は笑いながら彼女を義勇の部屋へと案内してやった。
部屋にいた義勇に声をかけて、二人並んで道場へと向かう。
「食べられるものになったのか」
「……たぶん」
「自信なさげだな。普段料理しないのか」
「家ではするけど。千君の方がお料理上手だしね」
「千君?」
「千寿郎君。杏寿郎さんの弟さん」
「………ふうん」
改めて少し落ち込む義勇。
杏寿郎は昔からいつも琴音の手料理を食べているのだ。当たり前といえば当たり前なのだが、悔しさが込み上げる。
道場に入ると、それぞれ柔軟を始める。
身体を解しながら琴音が喋りかけた。
「そういえば冨岡と鍛錬するのって初めてだね」
「そうだな」
「現場で一緒に戦ったこともないし」
「そうだな」
「炎と水は、あんまり合同任務にならないもんね。呼吸の相性の問題かな。だから柱稽古も少ないのね」
「そうだな」
リピート機能が付いてるのかと思うほど「そうだな」しか言わない義勇。しかし、相槌をうつだけでも大したものなので、琴音は何も言わない。
「腕は」
「大丈夫だよ」
「手加減要るか」
「出来るものなら、どうぞ」
立ち上がった琴音に竹刀を投げて寄越す義勇。それをパシッと受け取ると、琴音の顔付きがスッと変わった。
「よろしくお願いします」
「来い」
二人の柱稽古が始まる。