第10章 稽古という名の
琴音が甲になってしばらく経つ。
もはや彼女はほとんど柱と同じだけの評価を受けており、仕事も彼らと遜色ない内容のものをこなしている。
よって彼女も、柱同士の手合わせである柱稽古を行っている。
骨折がほぼ完治した琴音は、任務復帰に向けてリハビリ稽古を開始していた。
「ごめんくださーい」
昼の時間が過ぎたころ、冨岡邸の前で琴音が声をかけた。義勇が家の中から出迎える。
「お邪魔します」
一人で男の家には行きたくないと言っていた琴音だが、これは仕事の一環である。己を鍛えるために、仕方ない部分でもある。他の柱の家にも行って稽古をしているのだ。
義勇の家に上がる琴音。
キョロキョロと見回す。
「おっきー……」
「他の柱と大差ない」
「個人宅の中では大きい方な気がするよ」
「持て余している」
「あはは!趣味とか作ってお部屋使えばいいじゃん」
「……例えば」
「お茶とか、お花とか……水墨画とか!」
「俺がやると思うか」
「ちっとも思わない!」
二人は歩きながら台所へ行く。
そう。今日は柱稽古兼、約束を果たす日だ。
琴音が鮭大根を作るという、あの約束を……
台所には一人の女性がいた。
冨岡邸で彼の身の回りの世話をしている、千代という名のおばちゃんだ。
「こんにちは、台所お借りしますね」
「あら、こんにちは。あなたが、夜月さんね」
「はい」
「冨岡さんからお話は聞いているわよ。こっちおいで。お鍋はここにあって……」
千代は琴音に調理器具やお皿の場所を丁寧に教える。琴音は背負っていた食材を机におろし、ふむふむと説明を聞いている。
一通りの説明が終わるとほったらかしていた義勇に気が付き「あ、冨岡、ごめんね!作ったら呼びに行くからお部屋で待ってて!」と声をかけると、彼はコクリと頷いて台所から去っていった。
琴音は千代から割烹着を借りて隊服の袖を捲り、鮭大根を作り始めた。