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言の葉の裏【鬼滅の刃】冨岡義勇

第9章 炎と水


義勇は杏寿郎を前にして、口を開いた。

己の口は糊付けなどされていない。この口があまり開閉しないのは、人と話すことが得意でないからだ。


「俺は、夜月のことを、愛しく思っている」


初めてそう口にした。
逃げも隠れもせず、堂々と己の思いを発する義勇。
不思議なもので、口にした途端、脳みそが何かを切り替えたような気がした。心でカチッと音がする。まるで、「そうなのですね。では今後そのように動きますので」と言わんばかりに……

「そうか。それが聞けてよかった」

そう言うと杏寿郎は椅子の下に置いていた刀を持って立ちがあった。そのまま机に二人分の蕎麦代を置いて店を出ていく。

後輩に奢られてしまった。
そう思いながら、義勇も杏寿郎に付いて店を出る。

「おい、金」
「気にするな!俺が誘ったのだからな!」

杏寿郎はいつも通り目を大きく開けて笑っている。

「君のその言葉、琴音に届くのはいつになるのだろうな」
「…………」
「思っているだけでは伝わらない。彼女は相当鈍いぞ!」
「…………」
「君の知らない琴音をもっと知りたいと思うのなら、しっかりと伝えねばな!」

「……寝起きが悪いことは知っている」
「ん……?おい!なぜそれを知っている?共寝したのか!?聞き捨てならないぞ!!」
「…………」
「ここで黙るな!!冨岡!」

そこへ飛んでくるそれぞれの鴉。彼らは柱である。常に最高難易度の任務を与えられる。鴉から告げられた仕事内容を聞き、戦場へ向かうために覚悟という名の衣を纏った。

「では、またな!冨岡」
「ああ」
「先程の件については次会ったときに聞かせてもらう!死ぬなよ!」
「ああ」

そう言葉を交わし、別れて走っていく。

琴音を好きという共通点で結ばれた二人。
義勇は、人と関わることは得意ではないが、この真っ直ぐな男には好感が持てた。

林の中を走りながら、義勇は亡き親友と過ごした日々を思い出した。

友、か……

杏寿郎と義勇が友なのかはわからない。錆兎以外に友達がいなさすぎて、もうどんなものだったかすら覚えていない。

ただ、義勇は心の中が少し暖かくなるのを感じた。


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