第9章 炎と水
「ちゃんと自分の中の声に向き合ったんだな」
「うん」
「そして、有耶無耶にしないでしっかり俺に話をしに来た」
「……うん」
「偉いぞ、琴音」
杏寿郎はそう言ってにこりと笑った。
優しい。この人は本当に優しい。琴音は右袖で涙を拭いた。
「素直な涙だな」
「……うぅ……ぐすっ……」
「俺は、琴音のそういう所がとても好きだ」
「ひっく……、杏寿郎さん……」
「泣かなくていい」
「だって…、」
「君が泣く必要はない。何故なら俺は君を諦めないからだ」
「…………え?」
朗らかに笑う杏寿郎。
驚く琴音。
今、自分は彼からの求婚を断ったのだが。諦めないと言われた。聞き間違えたかな、と思う。
「嫌われたわけではないのだからな」
「え、まあ、うん。そうだけど」
「人の気持ちは変わる」
「ちょっと、杏寿郎さん、あの、」
「俺は君が誰を好きでいようと構わない」
「いや、構おうよ。応えてあげられないんだよ?」
「今の所は、な」
「今の所……」
「明日の君はわからない」
わぁ!すっごい前向きだこの人!!
知ってたけど!!
そのへこたれない感じ、知ってたけど!!!
唖然とした琴音は、涙が止まった。