第9章 炎と水
夜になり、部屋で腕の包帯を付け替えながら琴音は考え事をしていた。
……杏寿郎さんと、話さなきゃな
杏寿郎に好きだと想いを告げられてから一ヶ月以上が経ったが、自分の想いをちゃんと話せていない。あの日は驚いてしまってそれどころではなくなってしまったから。
相変わらず、杏寿郎から自分に向けられる好意をひしひしと感じる。しかし、今現在自分の心は確実に義勇の方に比重を置いている。宙ぶらりんな状態にして、杏寿郎に期待だけさせても申し訳ない。真っ直ぐな彼だからこそ、大好きな相手だからこそ、きちんと話さなければ。
琴音はそう思った。
寝間着に着替えずに、部屋着のまま杏寿郎の部屋に向かう。
「杏寿郎さん、今ちょっといい?」
「琴音?いいぞ、入れ」
「失礼します」
部屋に入る。
杏寿郎は敷こうとしていた布団を横に避け、座布団を出してくれた。お礼を言って座る。
「どうした。夜這いか?」
「そんなわけ無いでしょ!」
「ははは」
杏寿郎が笑う。勘のいい彼のことだ。何の話をされるのか、なんとなくわかっているのだろう。
「………あのね」
「ん?」
「……………」
「……………」
「えっと……」
「どうした。言ってみろ」
言いにくくする琴音に、優しく声をかける杏寿郎。
「大丈夫だから。話してごらん」
そっと促してくれる杏寿郎に感謝をする。
琴音は俯いていた顔を上げた。
「あのね、杏寿郎さん」
「なんだ?」
「私のこと好きって言ってくれたでしょ」
「うむ、言った」
「でもね……、でも、私…その気持ちにやっぱり応えられない」
「…………」
「ごめんなさい」
「理由を教えてくれ」
「………えっとね」
「冨岡か」
「……うん」
「そうか」
「ごめんなさい……」
琴音は再び俯いて、膝の上に置いた手にぎゅっと力を入れた。
「こら、手に力を入れるな」
「…………」
「左手、痛いだろう」
「こんなの……ちっとも痛くないよ」
琴音の目から涙が溢れた。涙はぽたりぽたりと太腿に落ちて、着物に吸われていった。