第9章 炎と水
ふぅ…とため息をついていると、部屋の外から声がした。
「琴音さん。甘味を作りました。一緒に食べませんか?」
途端にパアッと笑顔になる琴音。
「食べるっ!」
「ふふ、芋羊羹ですよ」
「わぁ!嬉しいな」
千寿郎に言われて縁側へ向かう。稽古着で竹刀の手入れをする杏寿郎もいた。
「杏寿郎さん、今日はお休みなの?」
「今の所な」
「柱は大変だよねぇ、お疲れ様」
「甘露寺も柱になって、伊黒と時透も柱になることになった。柱の数が増えたからだいぶ楽になってきたな」
「伊黒さんと時透くんは、あまり知らないなぁ。噂では少し聞いたことあるけど」
「そうか。今後共に戦うこともあるだろう。二人共努力家で、とても良い奴らだ!」
杏寿郎は決して人の悪口を言わない。必ず良いところを探して褒める。琴音は彼のそんな所を尊敬している。
「会えるのが楽しみだよ」
「うむ!」
「兄上、琴音さん、どうぞ」
そこへ千寿郎が芋羊羹を持って現れた。
「わぁ!美味しそう!」
「さつまいもだな!わっしょい!」
「あはは、まだ食べてないのに!千君、いただきます」
楊枝に刺さった羊羹を琴音は一口齧る。
「んー、美味しい!美味しいよ、千君!」
「良かったです」
「うむ!美味い!わっしょい!」
「あはは!わっしょーい!」
三人で楽しくおやつを食べる。縁側に明るい声が響いた。
「やはり琴音が居るとこの家は明るくなるな」
「ん?」
「そうですね。居てくださるとありがたいです」
「そうかな?」
「君がいない間、我が家は至極どんよりとしていたからな。父上も相変わらずあの調子だしな」
「俺も甘味の作り甲斐がありませんでした」
「そっか」
「琴音、おかえり」
「戻ってきてくれてありがとうございます」
二人からそんなことを言われて、琴音は心がぽかぽかと暖かくなる。
「私の方こそ、ありがとう。またよろしくね」
「ああ!」
「はいっ!」
琴音が笑うと二人の笑顔が返ってくる。そんな久しぶりの笑顔のやり取りに、先程までの沈んだ気持ちが薄れていった。