第8章 安心感
翌朝、琴音は自分の病室で目覚めた。
「……ん?」
ぼんやりとした頭で昨夜のことを思い出す。
そして、思い出しながらどんどん青ざめていく。
「え……、私……え?え?ちょっとやだ、最後記憶がないんだけど……」
とりあえず慌てて起きて義勇を探す。
彼の病室に行くと、義勇は隊服をきっちりと着込んで羽織を手に取ったところだった。
「冨岡!」
「なんだ」
「あ…の、私、昨日、」
「屋根の上で寝たから、俺が運んだ」
「ひぇぇぇ……やっぱりぃぃ」
琴音は頭を抱えて蹲る。
「ごめん!冨岡!」
「なんのごめんだ」
「私、重かったでしょ」
「そこか。それは別に問題ない」
「本当にごめんー!!」
琴音は片手を顔の前で縦にして、申し訳無さそうに頭を下げる。
「……しのぶちゃんに見つかってないよね?」
「おそらく」
「え、確信ないの?怖っ……」
「胡蝶はあまり気配を見せないからな」
「バレてたら怒られる」
「怒られろ」
「ひぇぇぇ……」
「男の腕の中で寝た事も、ついでに怒られてこい」
「え?」
琴音はキョトンとする。
「何をされても文句言えないだろう」
羽織に袖を通しながら義勇がそう言い、琴音はハッとする。ようやくいろいろなことを理解したようだ。ずざざざざと部屋の隅まで後ずさる。
「な、何かした…の……?」
「さあな」
「ちょっと!冨岡っ!」
「……………」
「無言、やだ!怖いよ!」
「………した方がよかったか」
「よくないよ!」
顔を赤くして叫ぶ琴音。
彼の言葉で、何もされることなく返却されたのだろうと推測した。ホッとする。
「冨岡、ここを出るの?検査終わり?」
「ああ」
「そっか。私も杏寿郎さんのところに戻るし、また会えなくなっちゃうね」
「……………」
「仕事、頑張ってね。死なないでよ」
「お前もな」
「うんっ!」
支度を終えた義勇が、琴音の側に寄る。
彼女の吊られた左手にそっと触れた。