第8章 安心感
琴音を抱きしめたまま義勇が辛そうに呟く。
「知らなかった」
「言ってないもん」
「………」
「鬼殺隊士は皆、辛い過去を持ってるでしょ。私だけじゃない。冨岡だってそうでしょ」
「……………」
「私一人甘えてられないよ」
「…………………」
「大丈夫。大丈夫だよ」
「だが、辛いものは、辛い」
耳元で語りかけられる義勇の言葉。不器用な男が、こんなにも自分に寄り添ってくれる。
なんだか心が暖かくなる感じがした。
「ありがとう。心配してくれてるんだよね」
「…………ああ」
「Give me your smile. 」
「なんだ?」
「異国の言葉でね、『笑顔を見せて』って意味」
「ぎ、みー……?」
「Give me your smile. 私が家族を思って泣くと、おじいちゃんがいつも言ってた。私にはわからない辛さがめちゃめちゃあったはずなのに、それを抱えながらおじいちゃんいつも笑ってた」
「……………」
「だから私も笑うの。私の笑顔は世界一だっておじいちゃん言ってたから!えへへ」
「ぎみー…、よあ、すまーる……」
「うんうん!上手だよ、冨岡!smileが笑顔、ね」
「すまえる」
「ふふ、上手」
琴音は義勇の腕の中、目を閉じてこてんと彼の胸に頭を預けた。なんだかとても安心する。
義勇は彼女の背中に回していた右手を頭へとずらし、優しく頭と髪を撫でてやった。
「じいさん譲りのお前の髪、綺麗だ」
「そうかな?ありがとう」
琴音が苦手な星空の下。
今、彼女は義勇によって、この世の全ての怖いものから守られるようにそっと包み込まれている。視界は全て義勇になり、彼しか目に映らない。