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言の葉の裏【鬼滅の刃】冨岡義勇

第8章 安心感


それから一週間が過ぎた。

夜が仕事場となる鬼殺隊士は昼夜逆転しやすいが、療養が長くなってくると通常の生活に戻っていく。
琴音は朝起きて夜寝るという当たり前の生活スタイルになっていたが、なんだかその夜は眠れなかった。
寝台から抜け出して窓辺に寄って夜空を見上げると、綺麗な星が見えた。
琴音は吸い寄せられるかのように外へ出る。左手を吊った状態なので飛び上がったりはせずに、梯子を使って屋根に登った。

屋根の梁に座って星を見上げる。
寒い季節ではないので夜風が心地よく、さらさらと下ろされた髪を揺らしていた。

少しの間にそうしていると、隣にふと一つの気配を感じた。

「胡蝶に見つかったら怒られるぞ」
「じゃあ冨岡も一緒に怒られるね」
「俺は安静指示を受けていない」

義勇は前日から蝶屋敷に来ていた。任務で毒を浴びてしまった彼は、数日間の治療及び解毒剤の効果を調べるための経過観察中だ。入院着も着ずに隊服のズボンと白シャツ姿。シャツは胸元を少し開けている。
彼はあまり夜に寝ないので、琴音の気配に気付いて起きてきたのだろう。

「眠れないのか」
「うん」
「そうか」

「星が綺麗だから」
「………?」
「星が綺麗すぎると、なんだか心がざわつくの」

琴音は義勇に目を向けることなく、星を見つめたままだ。義勇も空を見上げた。
二人並んで、しばらくの間黙って星を見る。

「私の家族が死んだ日も、こんな星空だったの」

小さな声で琴音が言う。

「私、まだ小さかったし、よくわからなかった。覚えてない部分も多い。でもね、星が綺麗だったことはやたらと鮮明に覚えてる」
「そうか」
「きっと皆あのキラキラ光るお星さまになったんだよね、たまに落っこちて会いに来てくれたらいいのに、なんて小さな頃は思ってたよ。可愛いでしょ」
「そうだな」

「星は綺麗。だけど、嫌い。……ちょっと怖い」
「嫌いなのに、何故見る」
「なんでかな。やっぱり家族に会える気がするのかな。子どもの時とあまり変わってないね、あはは」

彼女が家族の話をするのは珍しい。
義勇は星から彼女へと視線を移した。

彼女の目に涙はないが、寂しそうな表情を浮かべていた。

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