第8章 安心感
そこから一ヶ月。琴音は蝶屋敷で療養している。
その間杏寿郎や甘露寺、村田や竹内ら同期隊士、勿論義勇も任務の隙間をぬってお見舞いに来てくれた。琴音は呼吸で回復力を高めていき、左腕と肋の骨折以外は殆ど治った。
「片手だと、やりにくいなぁ」
琴音は研究室にいた。右手一本では薬をすることが出来ず、琴音はまだ動かせない左手ですり鉢を支えようとする。
「い…っ!いたたた」
左手に痛みが走り、つい声が出た。
「むう…、まだ駄目かぁ」
ため息交じりでそう呟くと、背後からどす黒い気配を感じた。恐怖でひぃっと息を吸い込む。
「そうですよ?まだ駄目なんです。何回言えば解りますか?」
「し、しのぶちゃん……」
「安静にできないのなら、いっそ寝台にくくりつけておきましょうか」
「やめてぇ!」
しのぶは琴音から製薬道具を奪い取り、さっさと片付ける。しのぶの留守を狙った犯行だったが、彼女の帰宅が思いの外早くて見事にバレてしまった。
「先日は刀を振ろうとして」
「あれは、その……刀の手入をしようかなって」
「今日は薬の調合ですか」
「薬はさ、ほら、力使わないし」
「琴音は本当にいい度胸してますよね」
しのぶは笑顔だが、その目は全く笑っていない。
「ごめんなさい」
観念した琴音は素直に謝った。しのぶはため息をつきながら隣の椅子に座る。
「何でそんなにじっとしていられないのですか?」
「焦るんだもん」
「何に?」
「私まだまだ弱いのに、こんな怪我して。やりたいこといっぱいあるのに、何もできないんだもん」
「……それだけ?」
「……………」
「何かをしていないと、いろいろ考えてしまうからではありませんか?」
「……凄いなぁ、しのぶちゃんは」
琴音は苦笑いを浮かべる。