第8章 安心感
「ならば、まずは怪我を治せ」
「うん」
「……痛いか」
「あはは、ご想像にお任せします」
眉毛を下げて笑う琴音に、義勇はそっと手を伸ばす。彼女の頬に優しく触れた。義勇の目が、真っ直ぐに琴音を見つめる。
血を多く失ったせいか、彼女の頬は白く、ひんやりとしていた。それでも、彼女が生きて今ここに存在していることを、手のひらを通して義勇は感じた。
「良かった……」
琴音にも、頬から義勇の体温が伝わってくる。
琴音は少し驚いて、目を丸くした。頭を撫でてもらうことはよくあったが、こんな触られ方をしたことはなかったから。
「しばらく養生しろ」
「う…、うん」
「手料理、楽しみにしている」
義勇はスッと手を離すと、「また来る」と言って病室から出ていった。
残された琴音は、自分の心臓が早鐘のように脈打つのを感じていた。右手で赤くなった顔を隠す。
……な、なんなのよ……
安静にせねばならないのに、こんなに心拍と血圧をあげてどうするのだ。落ち着け、落ち着けと言い聞かせる。
「後でまた、しのぶちゃんに相談しよう」
琴音は布団に寝転んだ。
体が熱い。負傷部分が発熱しているのか、それとも……
「鮭大根、練習しなきゃ」
布団の中で、小さな声でそう呟いた。