第8章 安心感
数日後、任務終わりで琴音の様子を見に義勇が蝶屋敷を訪れると、彼女は目を覚ましていた。寝台から半身を起こして座っている。
「冨岡!」
彼女から嬉しそうな笑顔を向けられた。
しかし、その姿は痛々しく、ホッとしながらも義勇は眉を寄せて浮かない表情を浮かべる。
「……冨岡?どうしたの?どこか怪我したの?」
義勇のその表情を見て、途端に笑顔から心配そうな顔になる琴音。
「どこか痛いの?大丈夫?」
そう言われて義勇はベッドに足早で近付いた。
「お前だろう」
「冨岡?」
「痛いのも怪我してるのもお前だ」
「え、あ、うん」
「俺の心配などしてる場合じゃない」
義勇は辛そうな顔をして琴音を見つめた。それでようやくその顔の意味を理解した琴音。
「私が怪我したから、心配かけたんだね」
「………そうだ」
「ごめんね」
「………嫌だ」
「え、嫌だって言われても」
「嫌だ」
「うん。ごめんなさい」
駄々っ子の様になってしまった義勇に、苦笑いを浮かべながら謝る琴音。彼女が悪いわけでも、謝罪が必要なわけでもないと、義勇もわかっている。しかし、ここ数日心配しまくっていた義勇は、なんとなく意地悪をしたい気分だった。
「どうしたら許してくれるの?」
「……………」
「ねえ」
「……………」
「もう、拗ねないでよ。大人のくせに」
「……拗ねてない」
「ふふ。すっごい拗ねてるじゃん」
クスクスと笑う琴音。
「じゃあ、そうだね。心配かけたお詫びに、今度鮭大根食べに行こ?私の奢りで」
「鮭大根……」
「うん。それで許して?」
「……嫌だ」
「えー!これでも駄目なのー?」
「作ってくれたら、許す」
「え?」
「お前が鮭大根を作ってくれたら、だ」
「別に、いいけど。それだと味の保証は出来ませんぜ、旦那」
「構わない。俺の家で作れ」
「えー……、それはちょっと」
「家のことをしてくれている者がいるから二人きりじゃない」
「うーん、まあ、それならいっか。じゃあ、それで」
琴音は少し戸惑いながらも頷いた。
義勇も微かに表情を緩める。