第7章 杏寿郎の本気
琴音は布団の中でころんと寝返りをうち、枕元に置いた結紐を見た。
今使っているこの紐は、義勇に買ってもらった二代目である。一代目よりも濃い青で、ところどころ金糸が編み込まれていて雅な装飾がされている。紐の先には小さな桃色の花飾りが付いていた。
この紐は一代目のときと違って、義勇が自ら選んでくれた。
数々の紐が並ぶ売り場で、じっとそれらを見つめながら黙って精選していた義勇。その顔は真剣そのもの。琴音はそんな義勇をにこにこしながら見ていた。
一つの紐をとり、琴音に差し出してきた義勇。琴音は一生懸命選んでくれたことが嬉しくて、大きく頷いた。すると彼は、少しホッとしたような柔らかな表情を見せた――…
『冨岡だろう。君の心に住んでいるのは』
杏寿郎のあの言葉。
あまり考えたことがなかったが、思えば確かにその通りだ。見事に言い当てられている。そんなにわかりやすいのだろうかと思う。
彼に髪をくくってもらうのが、あんなに嬉しいのは何故?
付け替えたものの、古くなってしまった一代目の結紐も捨てられずにいるのは何故?
琴音は自分に問いかける。
「ううぅ……わかんないよ……」
仕事が忙し過ぎて、ろくに恋愛などしないまま適齢期に突入してしまった琴音。
「どうすればいいの……?」
体が冷えてきたので、布団を頭まで上げて丸まった。
「だって……冨岡は……、どこか似てるんだもん。お兄ちゃんに……」
琴音は布団の中で、独り言を呟いた。
大好きだった、年の離れた兄。琴音を鬼から助けるために、その命を散らした。
社交的な性格だったため義勇とは似ていないはずなのだが、たまに自分に向けられる目が不思議と兄に重なるのだ。
「お兄ちゃん……会いたいよぅ……」
布団で視界が塞がれた中にいると眠気が襲ってきて、琴音は程なく眠りについた。