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言の葉の裏【鬼滅の刃】冨岡義勇

第7章 杏寿郎の本気


「杏寿郎さん、入るよ」

琴音が声をかけ、障子を開けた。

お盆に乗せて持ってきた彼の湯呑を、胡座をかいた杏寿郎の横に置く。

「ありがとう」

正面に座った琴音に微笑みかけて一口お茶をすする。美味い。風呂で失った水分が補給されていくのがわかる。


「琴音、話がある。聞いてくれるか」
「うん。なに?」

何も考えてない琴音が緩やかに笑う。
ここ数年でぐっと容姿も中身も大人っぽくなったが、こうして夜に男の部屋に来れてしまうあたりがまだ幼いと思う。自分は最早男として見られていない。だからこそ、ここでちゃんと言うのだ。


「俺の嫁になってくれ」

杏寿郎は琴音をしっかりと見つめて、そう告げた。婉曲表現や比喩表現を得意とする日本語文化をぶち壊すかのような、見事なまでの直接表現だった。
彼らしい告白に、目をパチクリとさせる琴音。

「嫁……?」
「そうだ」
「誰が?」
「琴音が」
「誰の?」
「俺の」

琴音の脳みそが付いていかないのは、少しだけ飲んだ酒のせいなのか。
急にわからんちんになってしまったかのように、一つ一つ確認していく琴音。それに対して杏寿郎も一つ一つ馬鹿丁寧に答えていく。


そして。

「………なんで?」

少しずつ理解していった彼女の口から出たのは、疑問の言葉だった。


「なんで、とは?」
「なんで、私が嫁になるの?」

そう聞かれて杏寿郎も驚くが、それにより、一つのことに思い至った。

「……ふむ。俺の言い方が悪かったのだな」
「え?」
「言い直す」

そうして一つ呼吸を置いて、言葉を追加した。

「琴音が好きだ。だから、俺の嫁になってくれ」

「………私を、好き?」
「そうだ。これなら、なんで?とはならないだろう」
「うん。確かにね」

何故か納得をして、コクリと頷く琴音。

そして、次第にじわじわと琴音心の占めていく『好きだ』という言葉。
普通なら即効性のある言葉のはずなのに、恋愛慣れしていない彼女には時間がかかったようだ。

彼女の頬が赤くなっていく。

「……やっと、伝わったか?」
「う……、うん」
「それは良かった!」

杏寿郎は晴れ晴れとした表情を浮かべて、またお茶をすすった。


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