第7章 杏寿郎の本気
その夜。
煉獄家ではささやかな形でお祝いが行われた。
槇寿郎の機嫌がすこぶる悪かったので、千寿郎と琴音、杏寿郎の元継子である甘露寺蜜璃の三人で杏寿郎の柱就任を祝う。
「兄上、おめでとうございます」
「うむ!」
「煉獄さん、私も嬉しいです!」
「ありがとう!」
「杏寿郎さん、これから大変になると思うけど、一緒に頑張ろうね」
「ああ!」
皆から祝酒を注がれ、宴が始まった。
鯛の塩焼きなどの彼の好物が卓に沢山並び、さつまいもの料理も多い。その殆どが甘露寺の腹へと入っていくが、杏寿郎も「わっしょい!」と喜びながら皆で楽しい時間を過ごした。
酒が回った甘露寺がうとうとし始めた頃、宴はお開きとなった。杏寿郎が甘露寺を寝かせている間に琴音と千寿郎で食器を洗う。
「いやぁ、蜜璃ちゃんの胃袋はどうなってんだろうねー。いつ見ても驚くよ」
「なんだか、魔術みたいですよね」
「あはは、本当にね。美味しそうに食べる蜜璃ちゃん、大好き」
「俺もです」
杏寿郎は台所に顔を出す。
笑いながら並んで洗い物をする二人を、優しい眼差しでそっと見つめた。二人はいつも仲が良く、千寿郎も琴音を姉のように慕っている。
この光景が、ずっと見られたら、俺はとても幸せだな……
ほろ酔いの頭でそんなこと考えていると、琴音が杏寿郎に気が付いた。
「あ、杏寿郎さん。蜜璃ちゃん、寝た?」
「ああ。ぐっすりだ」
「良かった。お風呂、湧いてるよ?お先にどうぞ」
「うん。そうする」
杏寿郎はそう言いながら琴音に近付く。
「琴音も眠いか?」
「ううん、まだ平気」
「なら……俺が風呂から上がったら、俺の部屋に来てくれないか」
「ん?いいよ?お酒持ってこうか?」
「酒はいい。……が、そうだな、茶を頼む」
「わかった」
それだけを言うと、杏寿郎は風呂へと向かった。
「……なんか変な杏寿郎さん。酔っちゃったかな。大丈夫かな」
「大丈夫だと思いますよ」
何かを察した千寿郎。やや複雑な家庭環境で育った彼は、周りの空気を読むことに長けている。
「琴音さんに、何かお話があるのでしょう。聞いてあげてください」
千寿郎はそう言って琴音に微笑みかけた。