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言の葉の裏【鬼滅の刃】冨岡義勇

第6章 薬師


「そういえば、何か用だったの?」
「…………用?」
「なんでここに居るの?冨岡」
「……………いや」
「ん?」

そう言われて、義勇は気が付いた。特に用はないのだ。取りに来た薬はもう受け取った。ここに居る理由にはならない。
琴音は不思議そうに首を傾げている。

「……別に」

咄嗟に良い返答が思い浮かばずに、なんと答えればわからない義勇。やや気まずそうな感じを出しながら小さな声でそう言うと、琴音はじっと義勇を見つめた。

「ひょっとして、私の顔を見に来てくれたの?」
「…………」
「忙しい中で、私を気にして会いに来てくれたんだね」
「……まあ、な」

「ありがとう、冨岡」

琴音は緩やかに笑った。不器用な義勇の、そんな優しさが嬉しかった。
自分の力不足に打ちひしがれながらも、人への感謝も忘れない彼女。

「冨岡に会えて元気が出たよ。冨岡は私のしんどいときによく居てくれるね。なんでかな…、冨岡を見ると安心する気がするよ」
「そうか」
「私、もっと頑張るから。もっともっと仲間を助けられるように」

彼女は義勇の前で滅多に泣かない。
今もきっと泣き出したいだろうに、泣くことをせずに前に進もうとする。

その切ないまでのいじらしさに思わず抱きしめたくなるが、衝動をぐっとこらえる。そんなことは出来ないから。

「頑張るのはいいが、無理はするな」
「うん」
「あと、あまり自分を責め過ぎるなよ」
「……うん」

琴音は義勇をしっかりと見て、力強く頷いた。
その顔を見て、義勇は少しほっとした。


「またな」

義勇は立ち上がって琴音に声をかけた。

「うん。またね、冨岡」

いつもみたいな元気はないものの、微笑みかけてくれる琴音。


……元気を貰ったのは俺の方だ

義勇は思う。



『なんでここに居るの?』

あの問いかけに、

『お前に会いたかったからだ』

と、自分から言えたらよかった――…



そんなことを考えながら義勇は蝶屋敷を後にした。


義勇ももう子どもではない。流石に琴音への淡い想いも自覚してきた今日この頃。

しかしながら、義勇は極度の口下手不器用男。彼の苦悩は、まだまだこれからなのである……


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