第1章 同期
それから約二ヶ月後。
任務終わりで宿に泊まった村田は、廊下で後ろから声をかけられた。
「あれ?村田さん?」
振り向くと、自分に向けてにこりと笑いかけてくる少女がいた。
「やっぱり村田さんだ」
「え?夜月?夜月か?」
「はいっ!その節は大変お世話になりました」
「いやいや。元気になったんだな、よかった。今日は任務だったのか?」
「はい」
村田が話しかけると、嬉しそうに答える琴音。
隊服を着て、長めの栗色の髪を頭の高い位置できちっと結んだ琴音は、前に会ったときとはなんだか印象が違って見えた。
「そっか。お疲れさん。あ、俺、これから近場で同期の奴らと飯なんだけど、お前も一緒に来るか?」
「え、でも……」
「ん?宿で食うのか?」
「いえ、素泊まりですが」
「なら来いよ」
「や、でも、ご迷惑では?」
「迷惑なんかじゃねえよ。奢ってやっから」
琴音は少し困惑していたが、一緒に行くことを了承した。村田の後に付いていき、大きめの飯屋の暖簾をくぐる。奥の座敷に案内されて戸を開けた。
「お疲れー」
「よー、村田!来たかー……、って、おい!大事件だ!!村田が女連れてきたぞ!!」
「なんだと?!なんで村田が女連れてくんだ!」
「村田のくせに!」
「みそっかすのくせに!」
わいわいと盛り上がる座敷。
村田が同期内でややいじられキャラなのが琴音にもわかった。
「誰がみそっかすだこら!」
「お前だよ!おいこら可愛い子じゃねえか」
「え……、ちょっと待てよ。あの子隊服着てるぞ」
皆の視線が琴音に向く。
「あ、どうも……、はじめまして。なんか急遽来ることになっちゃって。お邪魔でなければご一緒させてください。私は、」
琴音が挨拶をしようとすると、輪の中から「夜月か?」と声がかかる。
「え、竹内、お前の知り合いか?」
「ああ。回復してよかった」
「え……、貴方は」
「俺は竹内。ぶっ倒れてるお前を村田と一緒に介抱したんだよ」
「そうでしたか。あの時はお世話になりました」
「いやいや。結局なんもしてねえしな」
「まぁいいや、座れよ!!」
そんな声がかかり、琴音と村田は皆の間に座る。賑やかな食事が始まった。