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言の葉の裏【鬼滅の刃】冨岡義勇

第1章 同期


そこへ、廊下を走る音が聞こえた。

「琴音!!!」

初老の男が部屋に駆け込んできた。男は薬品で汚れた白衣のようなものの上に深紅の羽織を着ている。

「先生」
「琴音!琴音っ!!……よく生きて戻った!!」

男性は琴音を強く抱きしめる。

「偉いぞ、よく頑張ったな」
「せ、せんせぇー………」

琴音は抱きしめられたまま、男性の胸元に顔を埋めたまま泣き始めた。

「先生っ、私は……、誰も、助けられませんでした」
「………そうか」
「ごめんなさい、ごめんなさぁい……、うわぁぁぁん」 
「よしよし。お前は頑張ったよ」
「ううっ……、私がっ、もっと強ければ……」
「これからもっと強くなれ」
「わぁぁぁぁーーん」

先程までしっかりとしていたのに、気が緩んだのか年相応に泣きじゃくる琴音。
琴音の涙が落ち着くまで、男は彼女の小さな背中を優しく撫でていた。


無言で二人を見つめる村田。
完全に蚊帳の外だ。まったくもって居づらいことこの上なし。この空気のような存在のまま、こっそり退室しようかと思っていると声をかけられた。

「おい」
「っ、は、はいっ!」
「弟子が世話になった」
「あ、い、いえ、俺は何も」
「後は俺が引き取る。ご苦労だった」
「わかりました」

村田は立ち上がる。
そこへ、「あの……」と細い声がした。声の方へ顔を向けると、涙で潤んだ琴音の目と視線がぶつかった。

「ありがとうございました」
「あ、ああ」
「みっとないところをお見せして申し訳ございませんでした。もしよろしければ、お名前をお伺いしてもいいですか?」
「村田だ」
「村田さん……、また改めてお礼をさせていただきます」

涙声だったが、それでもしっかりと挨拶をする琴音。

「礼はいいよ。早く元気になれ」
「はい」

弱々しく笑う琴音。
その顔は年齢よりだいぶ上に見えた。

……ああ、こいつも苦労してきたんだな

そんな事を思う。
魘されながら家族のことを口走った琴音。つまり、おそらく彼女は自分たちと同じなのだ。


―――鬼に家族を殺されている


「…………じゃ、またな」

村田は部屋を出た。



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