第5章 水柱
「……俺のことは気にしなくていい。お前はあんみつでも汁粉でも何でもバクバク食えばいい。供養なのだろう」
「うん。冨岡も一口食べてあげてね」
「……一口なら」
「あーんしてあげるから」
「断る」
「あははは」
琴音は笑いながら店の暖簾をくぐり、義勇は彼女に付いていく。
「あ、ほら、甘くないのもあるよ!」
「俺はいいから、お前が食いたいものを選べ」
案内されて席に付くと、琴音は楽しそうにお品書きを見る。
あんみつだけでも数種類あるが、少し考えて、すぐに決めた琴音。相変わらずの決断の速さである。
「うんっ!決ーめたっ!冨岡は?」
「葛切り。黒蜜で」
「え、甘いじゃん!」
「俺は、甘すぎなければ、甘いものも……好きだ」
『好きだ』
この単語を己の口から発するのは久しぶりな気がした。
『好きだ』
頭の中で、己の声が響く。
そうか、もしかして。
もしかすると。
俺はこの少女のことが
好き、なのかもしれない―――……
「へぇ。そういえば前におはぎ食べてたもんね。嫌いなわけじゃないんだね」
「嫌いと言ったことはない」
「だから、何も言わないからわかんないんじゃん」
「……夜月」
「ん?何?」
「紐、かなり傷んできたな」
「あ。うん、そうなの。ずっと付けてるからね。でもお気に入りだから変えたくないし、切れちゃうまで使うよ」
「今度、新しいの買ってやる」
「え?いいの?」
「ああ。また俺が買ってやるから、それに換えろ」
「わーい!」
この想いがなんなのか。思慕なのか恋慕なのか、はたまたただの仲間意識なのか。あんみつのように、好きにもいろいろ種類がある。まだ何も確証はない。
それでも、いつも側にいられない分、自分の与えた何かをこの先も彼女に付けていて欲しいと思った。
さり気なく次に会う約束が出来たことに喜びを感じる義勇。
義勇は、運ばれてきた琴音のあんみつに匙を伸ばし、一口食べた。
「………甘い」
「そこがいいんでしょ!んー!美味しい!幸せっ!」
「供養はどうした」
「勿論、全力で行っております!」
「どうだかな」
「甘い物は正義!大好きっ!!」
頬を染めてあんみつを頬張る琴音を、頬杖をついて見つめる義勇。
少しだけ、己の中で何かが変わっていくような気がした。