第5章 水柱
「ねえ冨岡。甘味処連れてって」
「……………」
琴音と義勇は連れ立って歩き始める。
「ご馳走になります、水柱様。へへへ」
「何が食べたいんだ」
「あんみつ!」
「甘すぎるだろう……」
少し嫌そうな顔をする義勇に笑う琴音。
「新しいお店が出来たの」とか、「安倍川餅とかがあれば冨岡も食べられるかなぁ」などと、琴音が一方的に話しながら二人で歩く。
彼女の中から、大切な仲間を失った悲しみが消えたわけではない。
「甘いもの、好きな子だったの。よく一緒に行ってたんだ。だから私が代わりに食べて、供養してあげるの!」
それでもその悲しみを押し込めて彼女は笑っている。
義勇はいつも通り、とりとめのない彼女の話を黙って聞いていた。
久々のこの空気感。その不思議な心地良さに浸る。
『琴音は杏寿郎の嫁にすると決めている』
ぼんやりと槇寿郎に言われたことを思い出す。
……こいつは煉獄の考えを知っているのか?了承しているのか?
頑なに俺の屋敷に来ることを拒んだところをみると、既に婚約くらいしているのかもしれない………
そんな事を考え始めると、義勇の胸がざわついた。
婚約云々がないにしても、今の彼女の一番身近にいる男は煉獄杏寿郎だ。それは間違いない。
……そもそも、なんでこんなに気になるんだ、俺は。おかしい………
歩きながらぼんやりとしている義勇を覗き込む琴音。
「冨岡?どうかした?」
「なんでもない」
「そんなに、あんみつが嫌?」
「別に」
「大丈夫、あんみつ以外もあるよ!安心して」
甘味の心配をしているわけじゃない
そう言いたかったが、『じゃあ何の心配事?』と聞かれるのがわかっている。そしてそれに対する回答を、今の自分は持っていない―――…