第5章 水柱
そして、ふと彼の頭をよぎる一つの懸念。
「誰かに襲われでもしたか」
「……………」
「おい」
「……冨岡は違うってわかってる。女子に酷いことは絶対にしない」
「誰だ」
「大丈夫だよ。未遂だし」
「大丈夫なわけあるか。誰だ。言え」
「大丈夫だってば。そんなに簡単に組み敷かれるほど私は弱くない。相手もぼこぼこにしてるよ」
「……………」
義勇は眉を寄せる。
野営中など、女性隊士が手を出されるのは時折起こることだ。子どもだった琴音に今までそんな事はなかったが、歳を重ねることによってその類の危険が生まれてきているのだ。
「気をつけろよ」
「わかってる」
「信頼できる奴の側にちゃんといろ。よくわからない奴とは距離を取れ」
「うん。ありがとう、冨岡。心配してくれて」
「いや」
「お家は、今度みんなで行くよ。柱のお家だもんね!大っきいよね。あー、でも冨岡これからめちゃめちゃ忙しくなるよなぁ。遊びに行けるかなぁ」
琴音は目元をごしっと拭いて、少し笑った。
「お前、煉獄の家で暮らしているのに、俺の家には来ないのか」
「え?」
「…………煉獄の家だって、男しか居ない」
拗ねるように呟く義勇。
「いや、師範のお家なんだよ?」
「……………」
「もうずっと住んでるし。どうこうされることなんてありえない」
「俺だって、何もしない」
「わかってるよ」
「……………」
「………ぷっ」
「何がおかしい」
「だって、冨岡、ヤキモチ焼いてる」
「………そんなことない」
「あはは。はいはい」
琴音はくすくすと笑う。
「ありがとう、冨岡。涙、止まったよ」
向けられたのは、多少元気はないものの、いつも通りの琴音の笑顔だ。
義勇はほっとした。
琴音は墓の方を向き、そっと撫でるように優しく墓石を触った。
「もう同期を誰も死なせたくない。私、泣かずに頑張るから、そこから見守っててね。……また来るよ」
そう言って墓石から離れた。