第5章 水柱
「……甘味処にでもいくか」
「冨岡、甘いもの好きじゃないじゃん」
「だが他に、お前を泣き止ませる方法がわからない」
「自分で止められるよ。子どもじゃあるまいし」
琴音は苦笑いを向ける。その目から、またポロッと涙が零れた。
「それにこの顔じゃ、お店になんていけないでしょ。冨岡が泣かせたと勘違いされちゃうよ」
「………」
「やだな、本当。困っちゃう。なかなか止まんないな……恥ずかし。へへ」
琴音は、くるりと義勇に背を向ける。手ぬぐいで涙を拭いていると、背後から義勇の声が聞こえた。
「しっかり泣かないから止まらないんだ」
「そうなのかな」
「泣ききってしまえば、涙は止まる」
「成程……確かにそうかもね……」
「俺の家に来るか」
「……え?」
「俺の家なら誰もいない。俺も別にお前に構わないし、放っといてやるから好きなだけ泣けばいい」
「冨岡……」
「煉獄の家でもお前はきっと泣かない」
「…………」
「無駄に広い家だ。遠慮するな。茶くらい出す」
「………いや、あんたさ」
「??」
「そういうとこ、変わらないよね」
「何がだ」
「冨岡、もう十九でしょ」
「ああ」
「私は、十五だよ」
「知っている」
「男の家に、女がほいほい一人で行くわけないでしょーー!!」
琴音が顔を赤くして叫んだ。義勇は唖然とした顔をしている。
「……は?」
「いやだから、何が『は?』よ。ポカンとした顔して。こっちが『は?』だわ」
「俺がお前になにかするとでも?」
「いや、そんなことは思ってないけど」
「だったら何故そんな心配をする」
「……どんなときでも、誰が相手でも、女の子は自分の身を心配するの!」
義勇は驚く。
好奇心の強い彼女のことだから、てっきり『柱のお家散策だーい!』などと面白がって付いてくると思っていた。
頬を染めながら戸惑いを見せている琴音。
自分が思うよりずっと、彼女は大人に向かっていた。