第39章 未来へ繋ぐ
部屋に戻ると火鉢にあたる二人。
「これから、どうする」
「え?」
「……仕事とか、生活とか」
「ああ、そういうことね。うん。ちゃんと考えてるよ。鬼殺隊は解散になるだろうし。私はやりたいことがあるし」
義勇は少し驚いた。
この子は既にちゃんと先を見ていたようだ。
「薬師か?医者か?」
「まさか。私はちゃんと医学を学んだお医者様じゃないのよ」
「知識も技術も十分だろう」
「いやいや」
「ならば、やりたいこととは何だ」
「あのね。私、通訳になろうと思って」
琴音が朗らかに笑った。
彼女には、薬学や剣術以外にもう一つ、この特技があったことを義勇は思い出した。そして、琴音の亡き兄がその職に就こうとしていたことも。
「これからこの国は外国人も増えてくる。需要はあると思うの。私には異国の血も入ってるし、彼らに偏見もないしね。この国で生きていきたいと思ってる外国人を助けたい。おじいちゃんみたいに一人ぼっちになる人が居なくなることを願って」
彼女から強い意思を感じる。
「いいと思う」
「でしょ?」
義勇も彼女の夢に同意した。
「だから、義勇さんは働かなくていいよ。私が全部稼ぐ。任せて」
「それは……駄目だろう」
「なんで?」
「俺は家事も出来ない。お前に頼り切りになってしまう」
「別にそんなこと気にしなくていいのに。家事は千代さんに引き続きお願いすればいい。私も休みの日はやるし」
義勇は黙ってしまう。
これから家長となるのに、嫁に働かせて自分は無職というのはどうなんだと思っているようだ。
しかし、自分に出来ることは剣術くらいしかなく、片腕となってしまった今、それを生業にするのは難しい。
「それに、義勇さんは恐ろしい程にお金溜め込んでるし。実際、働かなくても暮らしていけるくらいあるでしょ」
「……まあ」
「物欲のない柱の財力は凄いからねぇ」
琴音は本や服などをよく買っていたが、義勇はこれまでほとんど金を使ってこなかった。
金庫の中にはこれまでの給金がたんまりと入っている。
「それでも気になるなら、私の仕事のお手伝いをしてよ」
「……わかった」
義勇は自分に出来ることの少なさを痛感した。しかし、それでもいいと彼女は言ってくれる。
だから義勇は彼女のやりたいことを精一杯応援しようと思った。