第39章 未来へ繋ぐ
甘い世界の中にいた二人。
しかし、突然の琴音の叫び声に義勇はぎょっとして振り返る。
「きゃぁぁっ!!」
「どうしたっ?!」
鬼?!
いやまさか
咄嗟に左手で彼女を後ろに庇って膝立ちになる。無意識に日輪刀を探す。
久しぶりに体に戦慄が走った。
「いやあぁぁ」
琴音は義勇の背中に縋り付き、ガタガタと震えながら縁側を指差した。
そこには――…蜘蛛。
義勇の警戒がしゅるしゅると消えていった。
「……なんだ」
「なにが『なんだ』よ!」
「焦った」
「ひいぃぃ…!やだやだ、こっち来ないでぇぇ!!」
「大丈夫だ。放っておけ」
「やだぁぁぁ!!」
千代が手入れをしてくれてはいたが、一ヶ月の間人が住んでいなかったいた家だ。
こうした来客がいるのも当然なのかもしれないが、琴音にとっては恐怖でしかない。しかもなかなか大きめの蜘蛛だった。
「冬は動きが悪くなる。何もしない。家の中で越冬する種類なのだろう」
「知らない!存在が悪!」
「蜘蛛は益虫だ」
「嫌!」
仕方ないなと義勇は立ち上がり、蜘蛛を掴み、ぽいっと塀の外へ出した。
「あ、ありがと……」
「ああ」
琴音はキョロキョロとしながら他にいないか探している。
義勇は縁の下を覗く。
「越冬中の蛇かなんかもいるかもな」
「蛇は平気」
「そうなのか?蛙やトカゲは」
「別に、大丈夫よ」
「意外だな」
「蛇やトカゲは薬にすることもあるし」
平然とした顔をする琴音に、義勇は少し引いた。この娘がただの女子でないことを思い出した。
「俺が今までに飲まされた薬にも使っていたのか」
「さあて、どうかしらね?」
蜘蛛が視界から消えて、平静を取り戻した琴音が悪戯っ子のように笑った。
義勇はそんな彼女に、縁側に上りながら首を伸ばしてちゅっと唇を合わせた。
驚いた琴音が頬を染める。
「怖い女だ」
「……今更でしょ?」
そこへ雪が降ってきた。
「あら、寒いと思ったら」
「中へ入ろう」
家の中に入り、戸を閉めながら外を見る琴音。
「どうした」
「……あの蜘蛛、大丈夫かな」
自分が追い出してしまったことを気にしているようだった。
優しいな、と義勇は思う。
「葉の裏に入っていった。大丈夫だ」
義勇は琴音の頭を撫でてやった。