第39章 未来へ繋ぐ
別に自分の髪など、長かろうが短かろうがどうでもいい。
それでも、毛束を持って目を閉じたら、この髪を琴音に梳いてもらったことなどを思い出した。彼女は義勇の髪をよく触っていた。嬉しそうに微笑んで。
ここまでこの髪と苦楽を共にしてきたのだなぁなどと、染み染みと思う義勇。
琴音も思うところはあるのだろうが、迷いなくズバッと切ってくれた。
隻腕となり、髪を結べなくなった義勇が、この先を生活していきやすいように。
ちゃんと先を見てくれている。
楽しげな彼女の雰囲気を背に感じながら、口には出さずに礼を言った。
しばらく髪を整えていた琴音が、義勇の頭をばさばさと払い始めた。
そこからまた鋏を使って少し切りこみ「わぁ、男前!」と声をあげ、「ちょっと待ってて」と部屋に駆け込んでいった。
手鏡を二つ持ってきて一つ義勇に渡す。
自分は後ろで一つ持ち、合わせ鏡で後ろを見せてやる。
「どう?」
義勇は鏡を使って、首元で切られて短くなった自分の髪を見た。ここまで短くするのは初めてだった。新鮮な感じがする。
「いい、と思う」
「元がいいからね。本当、驚きの男前になったわ。短髪も似合うねぇ。爽やかだよ」
「そうか」
「私の腕もいいのよね。あはは」
「そうだな、髪結いになればいいと思う」
「えー…それは嫌だ。文句言ってくるお客さんいそうだし」
話しながら、笑って義勇の髪を払う。
「私は…あなた専属の髪結いになるよ」
「そうか」
「あなたの髪のことは、全て私にお任せあれ」
「わかった。任せる。……一生な」
「はい。かしこまりました」
縁側で二人は微笑み合った。
大丈夫。
なんでも大丈夫。
無くしてしまったものや出来なくなってしまったことは、補って、工夫して、出来るようにしていこう。
大丈夫。
支え合っていけば、大丈夫。
もう一人じゃないのだから。
短くなった義勇の髪が、風に吹かれてふわりと動いた。