第5章 水柱
少しの間涙を流すと、琴音は涙を拭いて義勇に頭を下げた。
「お見苦しいところをお見せして、申し訳ありませんでした」
「…………」
「お忙しい中で墓参りいただき、彼も喜んでいると思います。彼に代わって感謝申し上げます」
「……おい」
「なんでしょうか」
「わざとか、それ」
「? 何がですか」
「言葉」
「水柱になられたとお聞きしましたので」
「…………」
「今までのようにはいきませんよ」
琴音は少し寂しそうな顔をして笑う。目にはまだ先程までの涙が溜まっている。
「……いらん」
「は?」
「敬語はいらん。今まで通りでいい」
「いや、そんなわけには」
「いらんと言っている」
「ですが、水柱様」
琴音がそう呼びかけると、義勇は少しだけ悲しそうな顔をした。
「…………やめろ」
「……あの、」
「お前に、そんな風に呼ばれるのは……嫌だ」
「…………」
珍しく自分の気持ちを述べる義勇。
今日はいろいろあって、義勇の心も疲れていたのかもしれない。
俯いた義勇の髪を、風が揺らした。
また少しの沈黙。
「まあ……冨岡が良いって言うなら」
彼を見ないようにしながら、ボソっと呟く琴音。
少々バツが悪そうに、口を尖らせている。伏目がちにしているその顔からは、出会った頃のようなあどけなさがだいぶ消えていて、彼女の成長を感じさせた。
風が琴音の髪も揺らす。
栗色の髪と一緒に、水色の紐も揺れた。
「ああ。俺が良いと言った」
「でも、仕事の時とか、他の隊士がいる時は敬語だからね」
「………わかった」
琴音は、ずびっと鼻をすする。またじわり滲み始める涙を、袖でごしっと拭いた。