第38章 春を待つ
それから一週間。
義勇と琴音は順調に回復し、蝶屋敷での療養が終わって自宅へ戻ることになった。
「お前もなかなかにしぶてぇな、冨岡」
「……まあな」
「片腕も、慣れればわりとなんとかなるもんだぜ。まあ俺には献身的に尽くしてくれる嫁が三人いっからな!!」
「……俺にだって」
「ん?誰がいるって?」
「まだ嫁ではないが……」
「ははは!早く嫁にしろ!!」
そこへひょこっと琴音が顔を出した。
左腕の三角巾は外されており、短くなった髪を後頭部で縛っていた。
「あれ、宇髄さん、こんにちは」
「よぉ」
「どうしました?どこか痛いところでも?」
トコトコと不用意に近付く琴音。
宇髄はぐぐっと屈んで、琴音に顔を近付ける。
「別に、どこも痛くねぇ。お前らが帰るっつーから、顔見に来たんだ」
義勇は、琴音の手を引いて宇髄から離す。
「なんだよ、冨岡」
「こいつに近付くな」
「何もしてねぇだろう」
「近い。駄目だ」
まあまあと義勇を宥める琴音。
「宇髄さん、もしかして薬が欲しいのですか?」
「……まあ」
「それで、私に用があって来たのですね?」
「ああ」
琴音は口元に手を当てて、少し考える素振りをした。
「奥様たちの、ですね」
「ご明察」
「わかりました。準備します」
「助かる」
琴音は部屋を出ていった。
「宇髄」
「睨むなよ」
「琴音は俺のだ」
「わかってるよ。別に何もしてないだろう」
「何かしていたら、俺はお前を殺す」
「おいおい、物騒極まりねえな。平和になったのによ」
義勇はプイッとそっぽを向いた。宇髄は苦笑いを浮かべる。
「嫁の具合、悪いのか」
「いや?」
「ならばなんの薬だ」
「………漢方薬だ。女向けの」
「……?」
義勇はよくわからないようだった。