第38章 春を待つ
琴音はいつも、足らない自分の言葉の裏まで読んで理解してくれる。補足もしてくれるから、自分は頷くだけでよかった。
今までそれに甘えてきた。
でもそれじゃ駄目だ。
どうしても伝えたいことはちゃんと言葉にして言わなければ。
義勇はそう思って口を開いた。
「俺も、この命が尽きるその時まで、お前と一緒に居たい」
「うん」
「この先のお前の人生、俺にくれるか」
「もちろん。全部あげるよ」
義勇は琴音の耳元で優しく話す。
不器用な男が、想いを乗せた言の葉を紡ぐ。
義勇はそっと身体を離して彼女を覗き込んだ。二人の目が合う。
「愛している」
「私も」
「好きだ。どうしようもないくらいに」
「うん、私もよ」
義勇は手を琴音の首元へ添えた。彼女の髪が義勇の手かかって、さらりと揺れた。
「春になれば、この傷も治る。
そうしたら……」
義勇の目に琴音が、琴音の目に義勇が映る。
出会った時はお互い子どもだった。
何度も喧嘩をした。
お互い大嫌いだった。
でも、辛い時に側にいてくれた。
支えてもらった。
支えてやることができた。
いつの間にか互いの間に愛が芽生えた。
そして、かけがえのない人になった。
これまでの軌跡が、今へと繋がっている。
「――…俺と、夫婦になってください」
義勇は緊張の中、しっかりとそう口にした。
初めて彼女に向けて好きだと口にしたときのことを思い出す。
「はい。喜んで」
琴音が頬を染めながら笑顔を見せる。
義勇も嬉しそうに口元を綻ばせた。
唇を寄せる義勇。琴音も目を閉じて義勇の求婚を受け入れた。
嬉しすぎて、幸せすぎて、笑っているのに琴音の目から涙が溢れた。
時計が十二時を指す。
新しい年になった。
唇を離した義勇が、琴音の栗色の髪を撫でた。
「今年もよろしく頼む」
「はい。希望の年になりますように」
二人は左腕と右腕で抱きしめ合った。
空にはきれいな星と月が浮かんでいた。