第5章 水柱
俺は柱じゃない
柱になるような人間では、ない
会議からの帰り道、義勇は己の羽織を胸元でギュッと握った。
それでも彼の意思とは関係なく、隊は彼を水柱とした。だから彼はこの先柱として隊を支えていかねばならない。鬼殺隊という大きな組織の屋台骨になるのだ。
無言で歩いていると、鴉が飛んできた。義勇の肩に止まる。
「義勇、隊士ガ死ンダ」
「誰だ」
鴉が告げた名前は、同期隊士だった。顔も思い出せないが、名前は聞いたことがあった。
「そうか」とだけ返し、黙る。
隊士が死ぬなどはよくあることで、珍しくもなんともない。いつもはさほど気にならないが、何故か心がざわめいた。
立場が変わったからだろうか。
柱は隊士を守らなければならない。今の自分の背には、多くの人の命が乗ったのだ。
義勇は進行方向を変えて歩き出した。
……柄でもない。どうかしてる
そう思いながら向かったのは隊士の墓所。今まで誰が死のうが来たこともなかった場所だ。
花も線香も何も持たずに向かう。
真新しい墓のそばに来ると、そこに小さな人影が見えた。花を抱えて墓を見つめている。
「………夜月」
「え?………冨岡?」
義勇に気付いた琴音は、すぐさま顔を背け、慌てて袖で涙を拭いた。
義勇は無言で近付く。
琴音の隣にしゃがんで、目を閉じて静かに手を合わせた。
少しの間、沈黙が流れる。
「意外です。………隊士の墓参りなど来ないと思っていました」
琴音は涙声でそう言うと、持っていた花を墓に供え、自分も義勇の隣にしゃがんで手を合わせた。
「安からに眠ってね……今まで、仲良くしてくれてありがとう………」
そう小さく呟く彼女の目から、我慢していた涙がぽろりと流れた。
「俺がいると泣けないか」
「……いえ、別に。そんなことは」
「だが、我慢しているだろう」
「私は泣きません」
「嘘が下手だ」
義勇が琴音の頭にそっと手を置く。
「泣けばいい。ここはそういう場所だ」
ぐっと歯を食いしばる琴音の口元から、小さく嗚咽が溢れた。堪えきれずポロポロと零れ落ちる涙。
声を殺して琴音は涙を流す。
義勇は何も言わずに、沢山の花であふれる隊士の墓を見つめていた。