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言の葉の裏【鬼滅の刃】冨岡義勇

第38章 春を待つ


「冨岡は、いい男ですよ。顔じゃなくて」
「……あいつ、末っ子だろう」
「え!よくわかりましたね!」
「我儘で末っ子のお前には、弟気質の男より包容力のある兄貴気質の男の方が似合う。あいつの他にも男は沢山いるぞ」
「ちょっとちょっと、ヤキモチ焼かないでくださいよ」
「……………そんなんじゃない」

男は少しムスッとしながら作業を続けていた。

琴音は笑いながら師の手元を見る。惚れ惚れするほど無駄のない見事な動きだ。

「……ずっと見ていられるなぁ」
「ん?」
「先生の、作業する手」
「そうか。お前は昔からずっと俺の製薬を見ていたな」
「はい」

琴音は机に右手を置き、その上に顔を乗せながら師の作業風景を見つめた。

懐かしい光景だ。
この匂いや音も、琴音に幼い頃を思い出させた。

師を見ていた琴音の目が次第に閉じていく。瞬きをする度に開かなくなって、そのまま静かに閉じられた。


すやすやと寝息が聞こえ始めると、育手は作業の手を止めて彼女の肩に布を被せてやった。


「こんな所で寝るな、馬鹿者」

男は軽くため息をついた。



戦いの中で弟子に痣が発現したという報告を、この男も受けていた。ぐっと眉を寄せる。

「なあ。お前は俺より早くに死ぬのか」

そっと問いかける。

「そんなことは許さない」

彼女の短くなった髪をそっと撫でた。

「俺が、なんとかしてやる」

琴音は少し疲れた表情を浮かべながら寝ている。直前まで金平糖を舐めていたからだろうか。唾液の分泌が増えているので、薄く開かれた唇からはよだれが垂れそうになっていた。

「十のころと同じ寝顔だな」

男は布で彼女の口元を拭いてやる。琴音の口がむぐむぐと動いた。


「この先は、幸せに過ごせ。……まあ、百歩譲って相手は冨岡でもいいから」


師は優しい眼差しで、眠る愛弟子を見つめた。


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