第38章 春を待つ
「症状は」
「目眩がまだ残っています」
「失血からのものだろう」
「はい」
「冨岡や竈門がまだ起きないのは毒の影響だろうな。お前は毒が効かないから、あいつらより回復が早いんだ」
「先生。冨岡も炭治郎くんも、起きますよね?」
琴音が不安そうな顔をして育手に聞く。
「さあな。知らん。俺は神様じゃない。もっとも神様なんてもん信じちゃいないがな」
「……相変わらず意地悪だなぁ」
「ははは」
「弱ってる怪我人には希望を与える言葉をかけろっていつも言ってたのに」
「お前、弱ってないだろう」
「弱ってますよ!!この上なく!!」
育手は「ほらよ」と小さな缶を琴音に渡した。
缶の中には色とりどりの金平糖が入っていた。
琴音は金平糖を一つ口に入れた。
優しい甘さが口の中に広がる。抱いていた辛さや不安が、その甘さでじんわりと溶けていく気がした。
代わりに目が潤み始める。
「神様ではないが、この俺が直々に薬を投与して管理している。これ以上に信頼できることはあるか」
「…………ありません」
「ならば、お前は自分の回復をしっかりやるんだ」
「……はい、……っ、」
琴音は溢れる涙を袖で抑えた。
「早く治して、俺を手伝え。忙しくてかなわん」
「はい」
「あいつも、お前を残して死なないだろう」
「だといいのですが」
ずびっと鼻水をすする琴音。
「……全く。あんな陰気な男の何がいいんだか」
「陰気……」
「顔は良いがな」
「別に顔で選んだわけでは」
「まあ…優しいのかもしれないし、確かに男前だが、あの陰気さがな……」
ぶつぶつと文句を言いながら、手を止めずに製薬をしている育手。琴音はくすっと笑った。