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言の葉の裏【鬼滅の刃】冨岡義勇

第38章 春を待つ


数日後、ゆっくりとなら歩けるようになった琴音は、義勇の病室に行った。左手は三角巾で吊られており、動かすことは出来ない。

義勇は同じく意識のない炭治郎と同室になっており、二人とも点滴を付けながら並んで寝ていた。

炭治郎の様子も見ながら、義勇の隣に座った。


「冨岡」

彼の左手を握る。
脱力したその手は温かかった。

「あれ、温かいねぇ。もっと冷たいかと思ってたよ。冨岡の手はいつも温かいね」

義勇に話しかけながらその顔を覗き込む。

「……こんな時の寝顔も整いすぎでしょ」

ため息が出そうな程に男前な義勇。
彫刻のように端正な顔をしながら、起きる気配もなく眠り続けている。

「戻ってきてよ?私、待ってるからね」

呼びかけても返事をしない。



しのぶを失った蝶屋敷は、人の出入りがあっても、どこかしんとしている。

寂しい。

あちらこちらからそんな気配がしていた。



琴音は義勇を見つめながら、ボーッとした。


多くの者を失った。
そしてそれと引き換えに得たのは平和な世界――のはずだが、まだその実感がない。

鬼がいなくなった世界をよく知らないし、体は痛く、大切な人は起きない。
ホッとした部分はあるが、幸せなど微塵も感じない。

琴音は俯いた。
肩の辺りで切りそろえられた栗色の髪が、前へと落ちる。



しばらくぼんやりとしながら病室で過ごし、琴音は立ちあがった。

「また見に来るね。炭治郎くんも、頑張るんだよ」

そう言って、笑顔を二人に向けた。

「もうすぐ年が明ける。それまでに起きてよね」

琴音は部屋を出ると、ゆっくり歩いて研究室に向かった。



「おう」
「先生」
「旦那、起きないか」
「ぐーすか寝てます。というかまだ旦那ではありません」

研究室では琴音の育手が薬を作っていた。
負傷隊士が多すぎて、戦闘終了後、ずっとこちらに手伝いにきていたのだ。

琴音は育手の向かい側に座った。

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