第37章 秘薬
受け身を取れずに落ちてきたカナヲ。
琴音は左肩を押さえながらカナヲに近づく。
「カナヲちゃん!!!」
「はぁ…はぁ……琴音ちゃん……」
「早く!誰かカナヲちゃんを治療して!!胸元、深いかもしれない!!」
女の隠が飛び込んできてカナヲを治療に連れて行った。
琴音は這いながら炭治郎の元に行く。
彼は目を閉じていた。
「はぁ、はぁ、炭治郎くん……、お願い、戻ってきて……お願い」
脈と呼吸を見る。
どちらもかなり弱い。
「夜月様……」
近付いてもいいものかわからない隠が、オロオロとしながら琴音に声をかける。
琴音は少し悩んだが、炭治郎の生体反応が鬼のそれではないので、側に来るように指示をした。
禰豆子や伊之助、善逸を近くに座らせて、炭治郎の手を握らせた。皆で炭治郎に向けて声をかける。
琴音は義勇の左側に並んで側に座り、祈る思いで炭治郎を見守った。
鬼の珠世が作った、人間戻しの薬。
そして琴音の育手が作った、『秘薬』。
これは珠世の薬の効果を急速にぶち上げるものだった。
珠世の製薬図面を見た琴音が育手に渡し、作ってもらっていた薬。
効くまでに時間がかかるという珠世の薬の弱点を、図面から即座に見抜いた琴音と育手。
二人は書面でやりとりをしながら開発を続け、珠世にも詳細を報告し助言をもらっていた。
必ず鬼を滅するという強い想いを共有した師弟。その想いを絶やすことなく研究し続け、完成させたもの。それがこの『秘薬』だった。
鬼と人との共同作業となった、最高傑作の二つの薬。
どちらともが効けば、可能性はある。琴音はそこに賭けた。そして、現に炭治郎から鬼化の反応は消えている。
だが、このまま人として死んでしまうかもしれない。劇薬二つをぶち込んだのだ。
あとは炭治郎の生命力にすがるしかなかった。
震える琴音の手を義勇がそっと握った。
大丈夫だ、という視線を彼女に向ける。
琴音は唇をきゅっと結び、頷いた。
そしてこの秘薬。
琴音と義勇にとっては“仲直りの薬”だ。
これを持って、義勇が謝りに来たなぁ。
あの時はたくさん泣いたなぁ。
義勇の手を握りしめながらそんなことを思い出していた。