第5章 水柱
情報が隊士に回ってから少し経った夏の日。
義勇は柱合会議に召喚されていた。
会議の終わりに、新たな水柱として産屋敷輝哉から直々に紹介される。
自分の名前を言い、会釈程度に頭を下げるだけの義勇に、柱たちから冷たい視線が飛ぶ。
「お前、歳は」
「十九」
「会議を聞いていて、わからないこととかはあったか」
「特にない」
話しかけられても、無愛想に答える義勇。
「皆、義勇にいろいろ教えてやって。義勇も皆と仲良くね」
産屋敷輝哉が優しい声でそう言うと、「はっ!」と柱達が頭を下げ、その場が解散となった。
義勇は無言で立ち上がって帰ろうとする。
するとそこへ低い声がかかった。
「おい、冨岡」
「……何か」
声をかけてきたのは煉獄槇寿郎。
義勇に鋭い視線をむけている。
「お前、琴音と仲が良いそうだな」
「琴音……?」
義勇は首をひねる。どこかで聞いた名前だなと思った。
「琴音だ。とぼけるな、知り合いだろう。夜月琴音」
「ああ、夜月か」
ずっと名字でしか呼んでいなかったため、なんと義勇は琴音の名前を忘れていた。
「夜月が何か?」
「あいつはいずれ俺の娘になる」
「………?」
「お前があいつに懸想しても無駄だということだ」
「何のことだかわからない」
「琴音は杏寿郎の嫁にすると決めている。あいつを煉獄家に迎え入れることで、炎の呼吸はより強靭なものとなるだろう」
「……勝手にすればいい」
「それに関して、文句はないのだな」
「あるはずがない。俺と夜月は何でもない」
「ならいい」
槇寿郎は「ふん」と鼻を鳴らして踵を返した。
「へえ。なに、お前、夜月琴音の知り合いなのか?」
今度は宇髄が義勇に話しかけてきた。
「だったらどうした」
「あいつ、凄えよな。この前一緒に任務だったんだけどよ、一般隊士にしちゃ派手に強え。それに、戦闘後に怪我した隊士を治療して回ってて、その手際が恐ろしく良かった」
「…………」
「あいつ、まだガキだけどよ。大人になったら美人になるぜ」
「…………」
宇髄がケラケラと笑うと、槇寿郎が「宇髄!琴音は駄目だ!」と殺気を飛ばし、宇髄は「げっ、地獄耳」と言ってふわりと姿を消した。