第37章 秘薬
太陽光が炭治郎を焼く。
義勇は炭治郎が逃げないように、爪を立てられながらも押さえつけている。
しかし突然、炭治郎の陽光灼けが止まった。
驚いて目を見開く義勇。
そんな義勇の一瞬の隙をついて炭治郎が攻撃に転じた。顎を殴られて、首を狙われる。
炭治郎の腕が義勇の首を捉える瞬間、伊之助が刀で弾いた。
「何してんだーーっ!」
伊之助は血だらけで、ハァハァと盛大に息が上がっている。
「半々羽織だぞ!仲間だぞ!!」
炭治郎に呼びかける。
隠に支えられながら善逸も現場に駆けつけた。が、善逸がみたものは、自我を無くして完全に鬼化している親友の姿だった。
「嘘だろ……。禰豆子ちゃんどうするんだよ、炭治郎……」
立ち尽くして涙を流す善逸。
炭治郎は目の前の伊之助に斬りかかった。
伊之助は意を決して炭治郎の首を狙う。
しかし、彼の猪頭から溢れ出す涙。
斬ることは出来ない。
大好きな仲間だから。
やはりどうしても斬ることなど出来ない。出来るわけがない。
伊之助の力が緩む。
それでも炭治郎の爪は容赦なく伊之助へと向かった。
目眩で立ち上がれない義勇の目の前で、炭治郎に殺されそうになる伊之助。
そんな炭治郎を止めたのは、人間に戻った禰豆子だった。炭治郎に抱きついて、その小さな体で攻撃を止めた。
「お兄ちゃん!!」
彼女の目から流れている涙は、兄によって噛みつかれている体の痛みではない。
ずっと自分の為に戦い続けてくれていた兄への謝罪と、愛する人がなぜこんな目にあわなければならないのかというやるせなさ故の涙だった。
「悔しいよ、お兄ちゃん。負けないで。……帰ろう。ね。家に帰ろう」
倒れていた琴音は目を覚ました。
禰豆子の発した『お兄ちゃん』という言葉が風に乗って耳に入ってきた。
「……お兄…ちゃん…?」
お兄ちゃんと家に帰る。
そんなことが出来たらいいなぁ。
お兄ちゃん…
お兄ちゃん……
不意に、昔、家への帰り道で転んで泣いていたときのことを思い出した。兄はしゃがんで琴音の涙を拭いてくれた。
『泣くな。頑張れ琴音。自分の足で立ち上がるんだ。ほら、帰るぞ。お前は強い子だから出来るよ』
大好きだった兄は、そう言ってくれた。