第36章 さあ、もうひと踏ん張りだ
追い詰められた無惨は、再度強い衝撃波を放った。無惨の側にいた伊黒と不死川は、その衝撃で激しく飛んだ。
炭治郎の左腕も消し飛んだ。
それでも彼は刀を放さない。
ここまでに彼が失ってきた多くの人たち。
彼を支えてきてくれた多くの人たち。
全ての人の想いを右手に込めて、炭治郎はただひたすらに踏ん張り続けた。
そこへガシッと力強く添えられたのは、炭治郎よりひと周り大きな左手。言葉もなく、彼を支えるように後ろに立ったのは炭治郎が初めて出会った鬼殺隊士。炭治郎を導き続けた、義勇だった。
二人は残った力をそれぞれの手に込めて、ぎゅうっと握りしめた。
炭治郎の刀がカッと赫く変化した。
無惨が悲鳴を上げる。
それでも諦めない無惨。
しつこさならこの世のいかなるものにも負けないだろう。
体の消滅を防ぐために体積を膨らましにかかった。
動けない義勇と炭治郎の傍らから風が起きた。
「disappear!!」
姿はなく、声のみが聞こえた後、無惨が半分に刻まれた。ぜぇぜぇと息荒く飛び込んできた琴音。着地が出来ずに派手に転んだ。
無惨の膨れ上がる速度が緩んだが、すぐに傷は修復し、またむくむくと膨らみ始めた。
しかし、その一瞬の隙をついて炭治郎は義勇を後頭部でドンと勢いよく押した。
よろめいた義勇の手が刀から離れる。
刀を放さない炭治郎だけが、膨らみ続ける無惨の中へとズブズブと飲み込まれていった。
「炭治郎くんっ!!!」
琴音は手を伸ばすが、もう炭治郎の姿はない。
「はぁ、はぁ、はぁ、冨岡、どうしよう!炭治郎くんがっ!」
「ぜぇー…ぜぇー……、落ち着け。まだ、奴の中で生きてる」
「早く引っ張り出さないと!!」
「ゲホッ!!……ぜぇ、ぜぇ、斬り続けて奴をこのままここに繋ぐ。炭治郎ごと斬らないようにしなければ」
義勇は苦しそうに血を吐き、それでも立ち上がって刀を構えた。
義勇が持っているその刀は、途中から使っていた一般隊士の刀で所々刃こぼれしていた。