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言の葉の裏【鬼滅の刃】冨岡義勇

第36章 さあ、もうひと踏ん張りだ


「皆は?」
「………生きてるよ」

竹内は琴音を見ずに答えた。

「竹内?……どうかした?誰に何があったの?」

そんな彼を訝しげに見上げる琴音。
嫌な予感がした。


「おいこら!まだ動くな!!」

愈史郎の声が聞こえて、そちらへ顔を向ける琴音。まだ焦点が定まりきらない彼女の視界に、愈史郎の治療を振り切って動こうとしている義勇が見えた。


「………と…みおか……」


義勇は右腕を失っていた。
琴音は目を大きく開いて呟いた。

自分の目がおかしくなったのかと思った。
いや、そうであって欲しいと思った。



義勇の腕が、ない。

いつも優しく頭を撫でてくれた腕が。

何度も包み込むように抱きしめてくれた腕が。

甘い口付けするときはよく耳元に添えられていた手が。

かなりの不器用だけど、髪を結うときは何故か繊細に動くことの出来る不思議な手が。

大好きだった、大きくて温かい義勇の右腕が……




琴音はふらりと立ち上がると義勇の元へ走った。足に力が入らずに、よろけて膝をついた。それでも這って義勇のところへ行く。

視界が揺らいでも、決して見失わずにただ真っ直ぐに彼の元へ向かう。


琴音は手を伸ばして、血だらけの義勇の首元に抱きついて叫んだ。


「義勇さんっ……!!」


義勇は少し驚いた表情をした。
それでも、痛みの中で左手を琴音の腰元にそっと添えて自分に引き寄せた。

「義勇さん、義勇さん!」
「……生きててよかった、琴音」
「私は大丈夫。義勇さんが庇ってくれたから。私のせいで……」
「違う」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「違う」

義勇は琴音を抱きしめたまま首を横に振った。
義勇の治療をしていた愈史郎は、その場を離れた。他の柱の治療へ向かう。


「お前のせいじゃない。腕の一本くらいどうでもいい」
「…………」
「気にするな」

義勇は琴音の背中をポンポンと叩いた。
彼女を落ち着かせるときに義勇がよくやるやつだ。

「まだ戦いは終わってない。いけるな、琴音」

義勇は琴音を離し、目を見てそう言った。

「もちろん」
「よし」

義勇は左手で彼女の頭を撫でた。


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