第35章 希望の薬
戦いの中で、義勇も甘露寺も伊黒も無惨の攻撃を体に浴びた。途中で悲鳴嶼と不死川も参戦したが、それでも無惨に有効な攻撃が見いだせない。
一秒。
なんとか一秒を繋ぎ続ける。
だが、そんなことですらもはや不可能であるかのように、積み重なる疲労と体内での毒の巡り、無惨からの容赦ない攻撃に追い詰められていく。
柱たちは必死で戦う。
そんな中、甘露寺が倒れた。
義勇の握力も尽きて、不意に飛んでいく刀。
目を見開いた義勇のところに無惨の攻撃が激しく打ち込まれた。
死んだ
義勇は一瞬、そう思った。
しかし聞こえたのはガキィンという鈍い音。
無惨からの攻撃を弾いたのは犬猿の仲だった伊黒。そして同じく不仲の不死川が足元に刀を投げてくれた。
仲間の助けに、普段表情を変えることのない義勇の顔が動いた。
喜び、慈しみ、申し訳無さ、そして……感謝。
言語化できない数多の感情が素直に心に広がった。
繋いでもらった絆と命を受け取り、また義勇は戦い始めた。
……最期まで、水柱として恥じぬ戦いを!!
『自分は柱ではない』
周りの柱と一線を引き、自分を否定し続けてきた義勇。初めて仲間と向き合い、自分を認めた。
持ち替えた刀を力強く振るう。かけがえのない仲間たちと共に、美しい水の波紋を纏って戦場を舞った。
しかし、戦況は悪化の一途を辿る。
無惨の毒が体に回り、どう足掻いたところで夜明けまで命が持たない。
皆がそう思った時。
突然一匹の三毛猫が戦場に現れた。
猫は空中へと高く跳び跳ねた。背中から液体の入った瓶がバシュッと音を立てて飛び出して、柱たちに突き刺さった。
「っ!!!?」
皆が驚いて咄嗟に引き抜こうとしたときに、声が聞こえた。
「抜かないで!!!大丈夫!そのまま!!」
それは、義勇がずっと聞きたかった声。
愛しい少女の声だった。