第35章 希望の薬
再生が速すぎて首が切れない無惨。
それを知って、義勇たちは愕然とする。
多少は弱体化させられると計算した上での特攻だった。しかし、通常技では全く攻撃が意味をなさないのだとわかった。
それと同時に間合いが近すぎたことに気が付くが、時すでに遅し。無惨の攻撃が義勇、伊黒、甘露寺の前に迫った。
しかし、三人とも死ななかった。
今まで彼らが助けてきた隊士たちが、身を呈して彼らを救ったからだ。
自らの肉体を壁として、柱の盾となって次々と斬られていく隊士たち。甘露寺が「駄目!やめてー!!」と叫んだが、彼らは恐怖をかなぐり捨てて臆することなく進んだ。
皆に続こうと走り出した炭治郎が、突如目眩を起こして倒れた。
「あれを見るがいい」と無惨に言われて炭治郎に目を向けた義勇たちは、彼の変化に驚愕した。
無惨から攻撃を受けた炭治郎の左目付近は、肉腫のようなものに覆われて腫れ上がっている。盛大に吐血をして昏倒していた。
無惨は、己の血は人間にとって猛毒であり、例え即死を免れたとしても攻撃を食らったものは死ぬのだと説明をした。
「竈門炭治郎は死んだ」
無惨がそう告げ、義勇は言葉を失った。
そんなばかなと思いつつ、ボロボロになって転がっている炭治郎は、紛れもなく無惨の言葉通りの姿をしていた。
『鬼舞辻を倒すのに、ヒノカミ神楽……日の呼吸が必要だと解った』
義勇の脳裏に、決戦前に琴音が言っていたことがよぎる。
炭治郎を失うわけにはいかない。
義勇は、視界の端にちらりと見えた村田に声をかけた。
「村田ーー!!」
「!!」
「炭治郎が“動けない”!!安全な所で手当を頼む!!」
義勇は炭治郎が生きていると信じて村田に託した。まだ諦めてはいけない。
義勇が名前を覚えていてくれたことに盛大に感激しつつ、村田は炭治郎を運んで戦場から離脱させた。