第34章 己のすべきこと
「悲鳴嶼行冥、不死川実弥、時透無一郎、不死川玄弥ニヨリ、上弦ノ壱撃破ァァァ!!」
城内に、鴉の報が響いた。
しかし鴉が続けたのは残酷な程に悲しい知らせだった。
「戦闘ニヨリ、時透無一郎、不死川玄弥、死亡!!!」
走り続ける炭治郎の目から、ぼたぼたと大粒の涙がこぼれ落ちた。彼らと深く絆を結んでいた炭治郎。彼らの優しい笑顔と匂いを思い出した。
そんな炭治郎を見る義勇の目には涙はない。いつも通りの無表情で炭治郎の前を走る。
でも、それでも悲しんでいないわけではない。炭治郎は義勇からの悲しみの匂いを感じ取っていた。
琴音の目にも涙はない。
全てが終わってから涙を流すと決めている。戦いが終わったときに自分の命は消えているかもしれない。それならそれで、構わない。
でももし生きていたら体中の水分がなくなるほどに泣こう……訃報を聞きながらそう思った。
報じられることもなく散っていく隊士も多数いる。琴音は必死に助けて回るが、追いつかない。
そこへ、見知った顔が現れた。
「夜月!!」
「村田!竹内!よかった、生きてた」
「お前もな」
琴音は、村田の背に乗っている黄色い頭を見た。
「善逸くん!酷い怪我」
「うわぁぁぁん!琴音ちゃん、痛いよぉぉ」
「こら、我妻!夜月に甘えんな!馴れ馴れしいんだよ!柱だぞ!」
「いいの、村田。善逸くん、頑張ったね」
善逸の上弦単騎撃破は鴉によって報じられていた。
「そうなの!俺頑張ったの!だから結婚して!俺死ぬかもしれないから今すぐして!」
「しない。死なないから大丈夫よ」
琴音は愈史郎に目を向けた。
「愈史郎さん……ですね?」
「お前は、夜月琴音だな」
「はい。善逸くんの治療をありがとうございます。あなたが治療してくれたのなら大丈夫でしょう」
「妙に信頼されているんだな」
「噂を、聞いておりますので」
村田と竹内は驚く。
愈史郎を鬼殺隊士だと思っている二人は、柱である琴音が敬語を使い、愈史郎が琴音を呼び捨てにしている状況がわからない。
……こいつ、本当に何者なんだ?
心底訝しそうな目を向けるが、愈史郎は全くもってしらんぷりをしていた。