第34章 己のすべきこと
「ぐっ……!」
「夜月!!」
「琴音さんっ!!」
琴音は室外へと飛ばされていった。
「そうか、琴音というのか、あの女は。ははは、軽いからよく飛ぶな」
義勇は刀をギリッと握った。
何もできなかった己に怒りがこみ上げる。
「あれ程までに強い女がいるんだな。見たことのない技を使っていた。そうか、杏寿郎は強い女が好みだったのか」
「……黙れ」
「ん?何を怒っている」
「黙れと言っている」
「何故だ」
「煉獄のことも、夜月のことも、何も知らないお前が言うな」
「なるほど、お前も琴音に惚れているのだな。美しい娘だからな」
「黙れと言ったはずだ」
「俺は喋るのが好きだと言ったはずだ」
義勇は刀を構えた。
「……ただ、この場からあいつを弾き出してくれたことには礼を言う」
自分には、冷静さを失った琴音を止めることが出来なかった。あのままだと彼女は死ぬまで一人で戦い続けただろう。
「俺の都合でしたことだ。礼を言われる筋合いはない。さあ、義勇!炭治郎!俺と戦え!!」
義勇と炭治郎の共闘が再開された。
一方、猗窩座に蹴り飛ばされた琴音。
だいぶ遠くまで飛ばされてしまった。
蹴られた腹部が痛む。
もちろん防御はしたが、それでも猗窩座の痛烈な蹴りの痛みにうずくまった。
「うぐっ……、げほっ……、ぅぁぁ」
呻きながら、早く戻らねばと思う。
倒すんだ
あいつを、この手で
痛む身体を起こそうとした。
這いつくばって前へ進もうとする。
よたよたと這いながら動いていると、羽織の袖が足元に絡まって転んだ。「ぐぁっ…」と声を上げて再び地に伏せる。
師から譲り受けた深紅の羽織。
彼女を押し止めるかのように琴音の足にまとわりついた。
「…………先生」
琴音は倒れながら羽織をぐっと握った。
その時、義勇たちとは反対方向、近い距離から隊士の叫び声が聞こえた。顔だけをそちらに向ける。
『お前は、これで多くの隊士を救え』
そう言って薬学を仕込んでくれた育手。
『お前がやるべきことはなんだ。判断を間違えるな。救える者も救えんぞ』
琴音は歯を食いしばり、両手に力を込めて立ちあがった。
そして、飛ばされた方角とは反対の方向へと走り出した。