第34章 己のすべきこと
城内を走る琴音は、無惨にも上弦にも柱にも出会うことが出来ずに焦り始めた。
……誰にも会えない。みんな無事なの?状況がわからない。無惨を……とにかく無惨を倒さなければ!
鬼に襲われている隊士を助けながら、無惨を探して走る。
おかしな札を付けた鴉を見つけた時、鴉が大きな声で叫んだ。
「死亡!!胡蝶シノブ、死亡ーーーッ!!上弦ノ弐ト格闘ノ末、死亡ーーーッ!!!」
走っていた琴音の足が止まった。
目を見開く。
しのぶの笑顔が、鮮やかに脳内に思い浮かんだ。
彼女のあの笑顔は、偽りのものだとわかっていた。自分を心の奥底へと押し込めて、姉になりかわろうとしていたことを知っている。
でも、しのぶの切ないほどに優しい心は、偽りではなかった。あの優しさにどれだけ救われてきたか。
まだ子どもと呼ばれる年齢から、当主となって皆を支えたしのぶ。琴音の前では、時折疲れた顔を見せていたしのぶ。
ちゃんと話したことはなかったけれど、自分は少しでもしのぶを支えることが出来ていただろうか……
「しのぶちゃん……」
足を止めてはいけない。
例えこの先、誰が死のうと。それは駄目だ。
自分は柱、なのだから。
琴音はまた走り出した。鴉に話しかける。
「場所はどこっ?!」
「ココカラダト遠スギル!無理ダ!」
「上弦の弐に近いのは?」
「栗花落カナヲダ!戦闘開始シタ!」
「カナヲちゃん……!よしっ!いける!あと一人、誰か近い隊士をそこに案内して!」
「心得タ!」
親友の死が、終わりでなく始まりであることを琴音は知っている。散々二人で計画を練ってきたのだ。
「まだまだ戦いは終わらない。ここから、だよね。そうでしょ?しのぶちゃん」
泣かない。
泣いてる暇などない。
「今までありがとう。ずっとずっと、大好きよ」
そこへ、少し先の階下から爆音が聞こえた。
戦いの気配がする。
琴音はそこへ向けて走り出した。