第33章 戦いへ
「全然手がかりが見つからなくて。うまくいかないことにイライラしちゃった。ごめん」
「…………」
「はぁ…、駄目だな私」
琴音はしょんぼりと俯いた。
義勇は彼女の髪を拭きながら彼女の耳元に手を当てて顔を上げさせた。彼女の目をじっと見つめる。
「わかった。泊まってきてもいい」
「……義勇さん」
「仕事なら仕方ない。俺も明日は稽古だ。でも、探しものが見つかったら、ちゃんと帰ってきてほしい」
義勇は悲しそうな顔をした。
「俺は、お前と一緒に居たい。たとえ少しの時間でも」
「うん。それは、私も」
琴音はしっかりと義勇の目を見て答える。
義勇はゆっくりと琴音に顔を近づけ、唇を合わせた。
琴音の唇は、風呂上がりだというのに冷えていてひんやりとしていた。義勇は彼女の首に腕を回してぐっと己に引き寄せる。
口付けをしながら琴音がうっすらと目を開けると、義勇の閉じられた目と長いまつ毛が見えた。
本当に綺麗な顔をしているな、とぼんやり思った。
「無理はするな」
「はい」
「何かあったらすぐに連絡をしろ」
「わかった」
違う
こんなことが言いたいんじゃない
義勇はそう思って口を開いた。
「琴音、お前を愛している」
琴音が驚いた顔をした。
義勇が普段あまり言わないことを言ってきたからだ。
「ど…うしたの?」
「どうもしない」
義勇は琴音をぎゅっと抱きしめた。
「言いたかっただけだ」
今日の夕方頃、柱に指令が来た。
それは戦闘準備の厳戒態勢をとれ、という内容だった。よって、今も二人は寝間着ではなく隊服を着用している。
「……そっか。ありがとう。私もあなたを愛してます」
「知っている」
嬉しそうに微笑み合って二人は抱きしめ合った。
「今日はもう寝るぞ」
「はい」
近くにそれぞれの刀と羽織を置いて、二人は布団に入った。
義勇は琴音の腰を優しく擦ってやる。生理による鈍痛が和らいでいく。
「ありがとう」
「うん」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
明日の夜はおそらく共に寝ることは出来ない。その後もどうなるかわからない。
この夜、二人はしっかりと寄り添って眠った。
――――そしてこれが、抱きしめ合って眠る最後の夜となった……