第33章 戦いへ
「善逸くんや伊之助くんも元気?」
「あ、はい。……いや、どうだろう。善逸、なんか少し様子が変だった」
「そうなの?」
「はい。善逸がおかしくなることは日常ですが、それでもいつもと違う感じにおかしかった」
善逸に対してなかなかに失礼なことを言いながら心配する炭治郎。
「何かあったのか聞いてみたけど、教えてくれなくて……」
「そっか」
「友達なのに」
しょんぼりと俯く炭治郎。彼の優しさが伝わる。
「友達だから、だね」
「え?」
「善逸くんは初めて何か大きな壁にぶちあったのかも。自分にしかやれないことで、一人で頑張ることしか出来ないのかもしれない」
「……そうなのかな」
「私もあるよ。私も一人で頑張らなきゃって思ってたけど、結局無理で、最終的にはずっと見守ってくれてた人に泣きついちゃったけどね」
義勇は杏寿郎が死んだ時のことを思い出した。あの時の彼女は見ていられない程憔悴しながら、一人で踏ん張ろうとしていた。
「善逸くんは一人で何とかするって決めたんだよ。あんなに泣き虫だったのに強くなったんだね。だから、炭治郎くんは見守ってあげよう。それだけでだいぶ救われるはずだから」
「そうかな」
「そうだよ」
台所から声がして、琴音は返事をして部屋から出ていった。
義勇と二人になると、炭治郎がポツリと呟いた。
「……義勇さんも、琴音さんを見守ったんですね」
「まあな」
「琴音さんは優しいですね」
「そうだな」
「姉さんがいたらあんな感じかな」
「どうだろうな」
義勇は彼女の我儘な一面も知っている。姉と言う印象は全くない。むしろ妹の雰囲気の方が猛烈に強い。自分が見ている琴音と炭治郎から見えている琴音の違いを改めて知った。
琴音と千代が膳を持ってくると、三人で遅めの昼ご飯となった。
「冨岡。私、師範の所行ってくる。戻りは夜かな。戻らなくてもいい?」
「駄目だ」
「なら、夜戻る」
琴音は食器を片付け、運ぼうとする。
その時、一瞬動きが止まった。義勇と炭治郎が、ん?と彼女に顔を向けた。
「どうした」
「あ、いや、別に何でもないよ」
琴音はよいしょと膳を持ち上げようとした。それを炭治郎が止める。