第4章 好きなもの
布団の中で琴音は寝返りをうつ。昼過ぎに仮眠をとったため、まださほど眠くない。
「冨岡とはただの仲良しなのにね。皆、変なの」
布団の中で転がって、枕元に置いた結紐に手を伸ばした。
「ふふふっ」
水色の紐を目の前に掲げ、嬉しそうに笑った。
「芍薬の花、綺麗……」
紫色のトンボ玉に装飾されているのは赤い芍薬。琴音の好きな花である。
『なんだ、その男は』
槇寿郎の言葉を思う。
冨岡は、同期の隊士……、でしょ?
違うの?他になんかある?
大切な仲間だ。
でも、それだけだ。
考えても琴音の中に義勇への恋心は見付けられない。義勇の事は勿論好きだが、それ以上でも以下でもない。……と思い至った。
というか、毎日が壮絶すぎて、任務を生き抜くことで精一杯なのだ。恋愛なんかより、日々の鍛錬の方がよっぽど大事だ。きっと義勇もそう考えているだろう。
そんなことを考えているうちに、琴音はいつのまにか眠りに落ちていた。
夢の中で琴音は、村田や竹内たち仲の良い隊士と楽しく街を歩いていた。誰も帯刀をしていない。緊迫感もない。平和な世界を皆でのんびりと過ごす。
そして、その中には義勇もいて、彼はかすかに笑っていた……
眠る琴音も口元に笑みを浮かべ、水色の紐をしっかりとその手に握りしめていた。