第4章 好きなもの
「……?何だったんだろう、師範。ちゃんとご飯食べたのかな」
槇寿郎を見送った琴音が首を傾げる。杏寿郎は申し訳無さそうに太い眉毛を下げた。
「琴音、すまない。父上がずけずけと……」
「え?別にいいよ?」
「失礼なことを言った」
「そう?」
珍しくしょんぼりとする杏寿郎。
そして杏寿郎の思考は、ぐんぐんと違う方向へと逸れていく。
「お前が誰を好きになろうと、俺達には何も関係ない。大いに恋愛をしろ」
「え。だから、違うんだってば」
「ははは、照れるな照れるな」
「いやいやいや、違うのよ!」
「冨岡は強いからな。安心して琴音を任せられる」
「ねえ、杏寿郎さん、私の話聞いてる?ねえ!おーい!」
「冨岡に酷いことをされたら、すぐに言え!」
「や、だからさ!ただの仲良しなんだって!千君、助けて!」
「こうなってしまったら、無理ですよ」
苦笑いを浮かべ、援護を放棄する千寿郎。
結局、その後杏寿郎の誤解を解くのにだいぶかかった琴音だった。
ご飯の後は杏寿郎と任務の事を話す。
槇寿郎が二人を指導しなくなってだいぶ経つ。指導者を失った二人は、強くなるために戦いの中で気付いたことを互いに報告し合ったり、技の研究をしていた。
「きっとまた、師範は前みたいに私達を教えてくれるようになるよね?」
「……そうだな」
「お酒もやめて、またあの凄い技を見せてくれるよね?」
「ああ」
「私、師範の技、大好き。強くて、とても美しい。皆を助ける正義の炎だから」
「ありがとう、琴音」
杏寿郎は琴音の頭を優しくなでて、笑いかけた。
「父上は大丈夫だ、琴音。ほら、今日はもう寝ろ」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」
琴音は立ち上がって自室に戻った。