第33章 戦いへ
一際大きな音がしたとき、炭治郎の声が聞こえてきておや?と思った。
「待った待った待ったァ!!ちょっと待ってくださいよ!殺し合ったらいけませんよ!」
今日は来客が多いな、と琴音は思う。
しかし、炭治郎が来たとなると隠れているのは難しい。気配を消していても匂いでバレてしまう。何なら昨夜のアレコレも勘付かれてしまうかも……などと少し焦りだした。
ま、いいや、義勇がなんとかするだろうと、庭で何やら叫び合っているのを聞き流しなら琴音は作業を続けた。
最終的には炭治郎が不死川の好物であるおはぎを口に出し、「つぶあん派かこしあん派か」という全く持ってどうでもいい話題を突きつけ、見事に怒りを買い、ぶん殴られて終わったようだ。
不死川は怒って帰っていき、どこまでも激しい男達の戦いは終了した。
琴音はヒョコッと庭へ顔を出す。
庭で義勇の羽織を枕にして伸びてる炭治郎を見た。
「あらら」
炭治郎の寝顔を見てクスッと笑う。
「身体は」
「痛いよ」
「……どこだ」
「お腹と腰」
「無理するな」
「はぁい」
琴音は腫れている顎に濡らした手拭いを当ててやった。顔にあちこち付いている泥も拭いてやる。
炭治郎に会うのは久しぶりだ。
琴音が顔をほころばせる。
「ふふ、可愛い」
「…………」
義勇が少し不機嫌そうに琴音の手を掴んだ。
「もういいだろう」
「え、まだこっちのほっぺたに砂が、」
「いい。離れろ」
琴音の身体を押して、炭治郎から離させた。
「……こんな子どもに嫉妬しないでよ」
「…………」
「もうっ」
「……子どもでも、男は駄目だ」
琴音は呆れるが、義勇はムスッとしている。
「さて、今日から炭治郎くんもここに泊まりかな」
「…………」
「この子、これからしばらく義勇さんの稽古でしょ」
「俺の稽古は宿泊は無しだ」
「でも炭治郎くんはお家もないし。泊めてあげたら?」
「…………」
「可愛い弟弟子でしょ?」
「…………」
義勇は少し考え込んでいた。
「とりあえず御飯は一緒でいいかな。千代さんに話してくるね。使ってないお布団も干しとくよ」
「……ああ」
琴音は家の中へと歩いていった。