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言の葉の裏【鬼滅の刃】冨岡義勇

第31章 ご挨拶


まだ体調が万全ではない琴音を気遣って、義勇は帰り道をゆっくりと歩いた。
そして義勇はさり気なく周りを警戒している。知人に会いたくないのだろう。

「あの人が言ってた縁日って、神社の?」
「ああ」
「私も毎年行ってた!お兄ちゃんと」
「そうか」
「もしかしたらすれ違ってたかもしれないね」
「そうだな」

琴音もよく兄と逸れていた。
泣きながら歩いていたとき、同じような迷子を何人も見てきた。その中に義勇もいたのかもしれない。

「まだやってるのかな」
「わからない。ずっと来てないからな」
「来年、一緒に来られたらいいね」

自分たちに、来年などあるのだろうか。
そう思いながら琴音はそう口にした。

「……ああ。共に来よう」
「うん」
「だが、知り合いに会ったら俺は速攻で逃げる」
「なんでよ!私のこと紹介してよ」
「今日みたいなのはごめんだ」

義勇は空になっている墓参り用の手桶を肩に担いだ。


日が暮れ始めた。
一歩一歩、村から遠ざかる。
二人の生まれ育った場所がまた離れていく。

寂しさもあるが、隣を歩く愛しい人がいるから大丈夫。お互いがそう思った。

『いってらっしゃい』

聞こえなくても聞こえる、家族の声。
琴音も義勇も振り返らずに歩く。


「ありがとう、義勇さん」
「?」
「お墓参り、出来て良かった」
「ああ。……俺もだ」

村から出て、そっと繋がれる二人の手。
赤く染まった夕暮れの道に二人の影が伸びた。


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