第31章 ご挨拶
義勇に連れられて定食屋に入る。
早めの晩御飯といった時間だ。
義勇は鮭大根を頼み、琴音は焼き魚をご飯小盛りで頼んだ。
運ばれてくるまでの時間、義勇は頬杖をつきながらぼんやりと店内を見ていた。
「懐かしい?」
「……そうだな」
義勇は、いろいろな思い出を脳内に浮かべる。
琴音はお茶をすすりながらそんな義勇を見ていた。
鮭大根が運ばれてくると、義勇の目が輝いた。
さては、と思い、琴音も一口もらって食べた。
「美味しい!」
「だろう」
「これが義勇さんの鮭大根好きの原点なのね」
琴音はもぐもぐと味わう。
「これに近付けるように頑張るわ」
「そこまでしなくても」
「ふふふ」
薄めだが、深みのある味。
彼の好きな味というものがやっとわかった。
二人が食べ終わると突然見知らぬおばちゃんに話しかけられた。
「あらぁ?あなたもしかして冨岡さんとこの義勇ちゃん?」
「……っ!?」
「義勇…ちゃん……?」
ぎょっとする義勇とぽかんとする琴音。
「やっぱりそうでしょ!義勇ちゃん!久しぶりじゃないの!帰ってきてたのね」
おばちゃんはバシバシと義勇の背を叩き、義勇は飲んでいた茶をゲホッと吹き出した。
「……どうも」
「ちょっと、とんでもない男前になったじゃないの義勇ちゃん。まあ赤子の頃からずば抜けて可愛かったけどねぇ、あらあらまあまあ」
おばちゃんは義勇の隣に座った。
義勇はおばちゃんの圧に完全に押されている。
間違いなく義勇が苦手とするタイプの人間だ。無表情の中にも全力で戸惑っているのがわかる。
「あら、こちらはお嫁さん?」
突然自分へと視線を送られて、琴音も驚く。しかしすぐにニコリと笑って対応をした。
「はじめまして。嫁ではありませんが、義勇さんと仲良くさせていただいております夜月琴音と申します」
「あらまー、義勇ちゃんの恋人さんなのね。可愛らしいお嬢さんだこと」
「恐縮です」
「私は三軒隣に住んでいてね、この子や蔦子ちゃんが生まれたときから知ってんだよ」
「そうなんですね」
「そりゃもう可愛くてね」
「あらー、ふふふ」
「あの義勇ちゃんに恋人さんとはねぇ……」
おばちゃんはしみじみとした。
義勇は勘弁してくれといった顔をしている。